第95話 前夜祭
時間ってあっという間だ。
特に、何かしらの『目的』がある時、というのは。
それはいつもだったらレポートだったりとか、試験だったりして、いくらでも時間が欲しいはずなのに気付けば目の前に迫ってたりする。
でも、今回は違う。
嬉し楽しい『お食事』! ですよ!
本当はギリギリまで身体を絞って――と気合を入れたいところなんだけど、それはダメらしいんだよねぇ。
まぁ、私の場合、絞るっていっても2kg落ちれば奇跡かなって感じではあるんだけど。
『件名:長田だけど
本文:博多着いた。栄えてんなぁ、やっぱり。』
『件名:高町です
本文:私まだ行ったことないんです。明太子、食べましたか?』
『件名:長田だ
本文:めっちゃ食ったわ。一生分。嘘。高町さんの分も買っといた。』
『件名:高町です
本文:ありがとうございます! ご飯炊いておきます!』
『件名:長田
本文:気が早すぎ(笑) とりあえずコガのアパートに送っといたから、後で渡すな』
「うはぁ、明太子さん……」
メールに添付されていた明太子の画像を見て思わず、じゅるり、とよだれを啜る。せめてもの抵抗、というのか、これくらいなら、と夕食を軽めにしてしまったのが仇となったようで、私のお腹は「自分、まだイケるっす!」と元気よく挙手している状態だ。
私知ってる。こういうのを『飯テロ』って言うらしいじゃない。
いや、確かにね。痩せるな、とは言われたよ? でもね、ぶくぶく太れ、とまでは言われてないと思うの。ということは、ある程度節制しないとなの、私の場合。
だから……、だからね……、えっとお茶漬け1杯くらいなら、良いかな?
「ふぅ……」
かなり軽めに盛ったお茶漬けを平らげ、締切間近のレポートをにらみつける。明日何の憂いもなく楽しむためにはこいつを片付けなくてはならないのだ。
あともう少し。
あともう少しで終わる。
――あ! 明日何を着ていこう。
前回のことを踏まえて、やっぱりちょっとゆったりめじゃなきゃかなぁ。
まぁ、私のワードローブ的にはお腹回りゆったり系しかないんだけど。
備え付けのクローゼットを開け、見慣れた服を眺めてため息を1つ。
仕方ない。
仕方ないのよ。
言っても私は貧乏学生なわけ。
デートだからってほいほいと勝負服を新調出来るような経済状況じゃない。
だったらせめてあまりくたびれてないやつを……!
ってなると、いままでライブに着ていったやつになっちゃうんだよねぇ。しかもアウターは2枚しかないから、こないだの赤いコートか、もしくはキャメルのになる。
そういえば長田さんって何色が好きなんだろう。着ているのはダークカラーが多いから、やっぱりそういうのが好きなのかな。
えっと……YURIEさんもそういう色をばしーっと着こなしてたなぁ。
雑念に邪魔されながらも、私はさんざん悩んだあげく、ポンチ素材のワンピースを選んだ。色はネイビー。これにマスタード色の厚手タイツ。
自分的にはちょっと珍しいコーデだと思う。ダークカラーのワンピースはこれしか持っていないし、ついでにいうと、これに合わせるためだけにこのタイツを買ったと言っても良い。
どうだろう、少しでもシュッとして見えるかな? 隣に並んでもおかしくないかな。似合う、とか、釣り合うとまではいかなくても。
いや、別にこういうのも嫌いじゃないから! ちょっと雰囲気と違うかなーって避けてただけで。うん。
っていうか、レポートやれ、私!
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