第6話 頼むぞ、田島っち!

 結局、何とか重大なミスはしなかったという程度の働きぶりで、私はバイトを終えた。

 女子学生のみに入居が許されているアパートに向かう。ご飯は何にしようかと考え、いまの状態で料理をすればどんなものが出来上がるかわからないぞと思い、私は身震いをした。


 とりあえず今日くらいは何か買って帰ろう。


 そう決めると、途端に足取りは軽くなる。料理自体は嫌いじゃないものの、自分のためだけに作って1人で食べるというのは何とも味気ないものだ。


 何にしようかな。

 ファミレス……は結局色々頼んじゃうから、ラーメンか、それともこないだ山口から聞いたカレー屋さんか。


 ラーメン、カレー。

 カレー、ラーメン。


 頭の中でその2つを繰り返しながら歩く。


 ――ふと、思い付いた。


 もし、ドラ先とベー先が本当にBULLETSバレッツの先輩なのだとしたら、きっと事務所も同じだ。

 インディーズバンドならいざ知らず、メジャーのバンドが他事務所のサポートを付けるわけがない。


 ――っていうか!


 ブログ! ブログ、チェックしてないじゃん、私!

 マメにブログを更新してる自称『BULLETS宣伝部長』の田島っちが昨日のライブのこと書かないわけないじゃん! そんで、先輩だったらなおさら紹介しないわけないじゃんね!


 どうした、私!

 抜かりすぎだぞ? 本当にどうした!


 良い、良い。

 ご飯なんてこの際カップ麺で良い!

 時間がもったいない!


 とっととコンビニ寄ってとっとと帰る!


 思い立ったら吉日の私は、早足から駆け足にシフトチェンジしてアパートに近いコンビニに飛び込んだ。


 とりあえず、買い置きの分も含めて適当なカップ麺をいくつかカゴに放り込み、鼻息荒くレジカウンターに置く。顔見知りのおばちゃん店員は私の気迫に少々気圧されたようで目を丸くしている。


「今日はずいぶんお急ぎのようで」

「そうなんです。あはは、ちょっと……」

「学生さんは忙しいくらいが良いのよねぇ。――はい、438円です」

「ええと、はい、500円で」

「はい、62円のお返し――あらやだ、箸は何膳必要ですか?」

「良いです、良いです。どうせ家で食べますから。ゴミが増えちゃう」

「しっかりしてるわねぇ~。はい、ありがとうございました」


 余裕ぶってにこやかに会釈をし店を出る。そのあとはもういっそ全力ダッシュだ。


 頼むぞ、田島っち!

 とりあえずドラ先とベー先のフルネーム! 何とかこれだけでも!


 あぁ、お腹の脂肪が揺れる。

 これで少しは燃焼されたかなぁ。

 そんな下らないことを考えつつ、そして自分の若さにも感謝しながら、玄関の手前で鞄を漁り、鍵を探した。

 到着のタイミングで鍵穴を差し込み、玄関に飛び込んだ。いまの私は正にBULLETS――弾丸だ。いや、見た目は完全に猪かもしれないけど。


 靴を脱ぎ捨て、コンビニ袋を狭いキッチンの調理スペースに置く。

 冷蔵庫から麦茶のガラスポットを取り出し、水切りカゴに伏せてあるグラスを持ってローテーブルについた。ぐぅ、という腹の音がカップ麺を催促するけれど、とりあえずは麦茶で黙らせることにする。


 まずは、ブログからだ。

 頼む、頼むぞ。


 祈りながら私はお気に入り登録しているBULLETSの公式ホームページを開き、*blog*と書かれた弾丸のアイコンをクリックした。

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