第4話 塗り替えられた!

 家に着いた瞬間、私は気付いたわけです。

 自分のミスにね。

 いや、ミスって言うのかなぁ。いやいや、これはどうしようもなかったと思うよ、実際ね。


 あの人の名前、チェックしそびれた――――っ!!!!


 確かね、私の記憶が確かならね、確かKATSUKI君は、『let me free!』の後にね、メンバー紹介してたのよね。

 それがいつもの流れなのよ。

 友達の付き添いだとかで初めて来る人もいるだろうから、ってことで、挨拶がわりに1曲歌って、それからメンバー紹介。


 だから今回もその流れだった。


 けど、今日のサポートのドラムとベースの人(こっちの人に関しては、紹介されるまで気が付かなかったんだけど)は「いやー、たぶん俺ら呼ばれるのこれっきりでしょ」って笑って、KATSUKI君からの紹介をさらっと流しちゃったのよね。あの感じからして、たぶん先輩なんだろうね、BULLETSバレッツの。メンバー達、ちょっと萎縮してたもん。いや、単に2人がデカすぎたからかもだけど。


 そう、2人ともデカかったの。めっちゃくちゃ。

 BULLETSの中で一番大きいT・T(自称176cm)が子どもに見える――は言い過ぎか。でも、拳骨何個分かは確実に大きかった!


 ぶっちゃけ、私はいろいろ圧倒されまくりすぎて、心臓バクバクさせながらぼーっと突っ立ってたんだけど、でも紹介がスルーされちゃったってことは覚えてる。

 

 それでもMCの合間とかには、やっぱり先輩(推定)だけあって気ぃ遣っちゃうのかな、要所々々で「○○さんはどうすか?」なんて話を振ってたのよ。ベース先輩(便宜上これで良いや)の方はヘラヘラと笑いながら「俺に振んなよ~」なんて言ってたけど。ドラム先輩の方はそんなやり取りを見て笑ってるだけだったかな。

 なのに私ったら、ほんと馬鹿!

 もー何でかぼーっとしてたんだよね。 


 それにしてもね。

 もーね、恰好良すぎ!

 ドラ先、恰好良すぎ!


 KIYO-Cキヨシさんもね、そりゃあ恰好良いですよ。ドラムめっちゃうめー! って思ってた。

 そ、れ、が! ですよ!


 もう一気に覆った!

 塗り替えられた!


 ドラ先上手すぎ! 恰好良すぎ!


 ってゆーか、もーふつーに恰好良すぎでしょ!


 ほんと誰なのー!?

 お名前が知りたいよー!!


 ベッドに寝転んでうだうだもがもがする。

 頭の中には今日のハイライトが次々と浮かんでくるけれど、そのほとんどが彼――ドラ先だった。


 初めてBULLETSに出会った時だって、まぁ似たような感じだったわけ。だから私は、あーまた出会っちゃったんだなぁって甘く見てた。

 頭の片隅に残る『課題』の2文字を意識出来る程度にはまだ冷静。そんな風に考えて。


 でもね、今回のは桁が違ったわけですよ。


 1998年の夏、私はそれを思い知ることになる。


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