第4話三嶋夢馬と私のアフタヌーンティー。

三嶋夢馬。

英語は得意。歴史は好き。現代文は得意。古典は好き。理科は得意。家庭科はテストは悪いが、実習は得意。

数学は大の苦手だと、彼女は困り顔をして言った。


「中山、屋上でアフタヌーンティーだ!」

6限の終わり、教室に飛び込んでくるなり彼女は目を輝かせて叫んだ。

ーうん、じゃあコンビニでお菓子と紅茶たくさん買っていこうよ。

教科書を揃え、筆箱のファスナーを閉じる。

6限の授業は、現代文だった。

彼女は机と同じ高さまで頭が下がるように床に座り、目から上だけを机の上にだして教科書が仕舞われていくのを眺めながら、楽しそうだった。茶色い瞳は私の手を追ってあっちこっちに飛び回っていた。

彼女の笑顔は、何も知らないようにも全てをさとっているようにも見える。


コンビニへ向かおうと、財布と携帯だけ持って教室を出た。

彼女はふいに、

「購買」

と呟いた。

「購買、やってるよね、やってるよね?放課後は蒸しパンとかクッキーとかラスクとか。そっちにしよう、近い!」

たしかに購買は、アフタヌーンティーにぴったりそうな品物がたくさんあった。

だが、放課後の購買は運動部の男子の夜食用としてほとんど売れてしまい、

残っているのは人気のないパンばかりだという記憶があった。

ー三嶋、購買はもう売れちゃってるんじゃない?

すぐにでも購買へ駆け出しそうな彼女の背中に声をかけた。彼女は振り返ると、右の口角をあげ、いたずらっ子のように笑った。

瞬きをして、次に目を開けた時には、彼女の背中は廊下の角を曲がる所だった。

慌てて彼女を追いかけ、風の抜ける廊下を走った。

ーうそでしょ…

息を切らしながら彼女を追いかけた。こんなに走ったのは体育祭ぶりだった。

彼女はきっと足が速い。次の角を曲がった時、彼女の姿はその次の角を曲がりそこね、手で空を切っていた。

購買に着くまでに、菓子パンをもった運動部の男子と何人もすれ違った。

その度に速度を落とし彼女の姿を探すが、結局購買にたどり着くまで彼女の姿を見つけることはなかった。

購買のおばちゃんと、楽しそうに会話している彼女の手には、

ラスクと、紅茶のシフォンケーキと、チョコレートクッキー、ミルクティーと、レモンティー、学食用のプラスチックコップが抱えられていた。

「あ、中山!みてー!絶対人気ないと思ったの、男の子には!」

そういって駆け寄ってくる三嶋とのアフタヌーンティーが、私は楽しみでたまらない。


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