第3話三嶋夢馬と私の帰り道。

三嶋夢馬。

身長166cm。

すらりと長い足。華奢な手首。

小さい足。小さい手。パープルのイヤホン。

いつも左側の髪を止めている色とりどりの4つのピン。

2つは星型のピンで、2つはアメピンだった。


夏休み、彼女は生物の補習で、私は現代文の補習で、

学校に通いつめだった。

帰り道が一緒になる度に、駅まで彼女の話を聞いた。彼女はたまに私への返答を求めた。

私の返答がつまらなくても、わかりにくくても、

彼女は笑顔で最後まで聞いた。


ただ駅まで歩く日もあれば、軽く2人でお茶をして帰る日もあった。

色んな話をするうちに、彼女の事をいくらか知る事ができた。

それがなんとなく嬉しかった。


クラスに特定の友達がいないこと。

成績は基本的に良いこと。

運動は平均より少し上くらいだということ。

小さい子向けのアニメが好きなこと。

2つ年上の兄がいること。

母とも父ともあまり顔が似ていないこと。

彼氏がいた事が2度あったということ。

今は彼氏はいないということ。


そして生物の講習は、授業中に先生を怒らせてしまったがゆえに喰らった、

ペナルティであるということ。


生物の宿題で、好きな生物についてのレポート提出が命じられた。

たしか、夏休み直前の授業に提出の課題だった。

私は猫を飼っているから、猫について書いた。レポートと言っても、遊びのような課題だと思っていた。

渡されたレポート用紙は400字の原稿用紙1枚だった。


彼女はそのレポートを、ユニコーンについて書いたらしい。

先生は、仮にも授業だ、真面目にやれ。と、みんなの前で彼女を叱った。

ユニコーンは、世界で存在が認められていない。

でもそれは私達の世界の中だけの話であって、彼女の世界にとっての常識ではない。


「先生ユニコーンがいないって証明できるんですか?」


三嶋夢馬の言葉にクラス中が凍りついたに違いない。生物の先生、岩木は、口答えされるのを嫌うタイプだった。

彼女にきっと悪気はなかった。

ただ、本当にわからなかったに違いない。どうして叱られているのか、何がまずかったのか、

先生が何を言っているのか。


ー大人をなめるなよ。馬鹿なことを言うんじゃない。

岩木は唇を震わせながらいった。

三嶋夢馬は丸い目で彼を真っ直ぐに見て言った。

「はぁ?」


この話は、何ヶ所かは相違しているものの、聞いたことがあった。

三嶋夢馬が岩木を激怒させ、レポートの再提出を拒んだと言う噂話は、一学期の話題をかっさらっていった伝説だった。


二学期になり、彼女は髪を伸ばすと言った。

会話も弾むようになり、どちらとも無く帰りを待っていたり、昼食を食べたりする。

でもどうしても聞くことが出来なかった。

なぜ、岩木に、

ユニコーンがいないと証明できるか、聞いたのか。

聞いてはいけない気もしたし、彼女はそんなこと、覚えていないような気もした。

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