自由
(息苦しい!息苦しいぞ!)
「え?」
(人間は…いや、この世に存在する万物は全て、生来何者にも縛られることのない自由な存在であるはず。だのに、見えないルールという名の鎖で束縛され、常識という枷を嵌められ、俺たちは偽りの自由の上で踊らされている!こんな息苦しい世界で果たしていいものか!!)
「あのさぁ、確かにこの世の中自由に見えてそうじゃないってのには同意するけどさ、そういう最低限の束縛がない世界を想像してみなよ。」
(う~ん…自由 of 自由だな。)
「その超自由状態でも、誰かの自由が別の誰かの自由を束縛するんだよ。例えば、川を見つけたA君が、その川を自分のものにしようとする。」
(自由だもんな。ものにしてやれ。)
「その川を遅れてBさんが見つけて、自分のものにしようとする。」
(うーん、暗雲が。)
「先に見つけたA君は当然自分のものだと主張するでしょ?でもこの世は全て自由なんだからとBさんも退くことはない。」
(うむ。)
「話し合いで解決すれば問題ないけど、全て自由な世界だったら話し合いの余地はない。A君かBさん、どちらか一方の自由が奪われる。」
(弱肉強食だな。自由は強者の特権だ。)
「それで勝ち上がって自由を得たものはいいだろうけど、敗れた方は果たして自由な状態と言える?」
(それはそいつが弱かっただけの話で。)
「相手の自由のために自分の自由を失うというのは、ルールのあるこの世界と同じでしょ。相手の定めたルール、この場合はこの川を勝者が自分のものにする、それを呑んだ上で生きていくわけだから。束縛された自由に不満を言ったのはお前だ。人だけでなく別の何かと関わりを持つ以上、この世界に真の自由なんてないんだよ。」
(だが、勝ち続けたものはどうだ?自分の欲望を突き通せるわけだから、真に自由と言えるだろう?)
「いいや。究極的に考えて真の自由なんてないね。少なくとも人間として生まれた以上は絶対。」
(何でだよ?)
「人間には肉体限界がある。寿命がある。呼吸をしなければ、食事をしなければ生きていけない。重力にも縛られるし、空を飛ぶのも自由だ…というわけにはいかないだろ。いくら自由とは言っても、全ての人間の感情を意のままにすることもできるわけではないし、天候や土地に縛られることだってある。」
(屁理屈だな。)
「お前の自由を押し通したいって言うわがままよかはマシでしょ。とにかく、真に自由を求めるなら、今のようにルールを設けた中で最低限得られる自由に限るってこと。」
(できないことも多いが、互いの自由を侵害せずに自由を楽しめるという部分もあるからな。)
「自由は不自由であって然るべきさ。」
(だな。)
「んで、なんでまた自由を求める主張なんてしてたの?」
(実は、新作のギャルゲーを買いに行ったんだが、レジの女の子に鼻で笑われてな…。)
「勘違いじゃないの?」
(だといいんだが、確かにふんって息を吐く音を聞いたし、レジ嬢は可愛い笑顔を見せていた。)
「営業スマイルは基本でしょ。」
(その笑顔の裏で こいつ、いい年してギャルゲーとかキモい とか軽蔑されていると思ったら…な。)
「あそ。」
(別にいいじゃないか!いい年したおっさんがギャルゲーしたって、法律違反でもなんでもない!自由じゃないか!!)
「ていうかさ、店員の目が気になるなら、そもそも店に直接行かずに、ネット通販とかで買っちゃえばいいだけの話でしょ。」
(ああ、その手があったか…。)
「次からは気を付けようね。」
(へぃ…。)
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