スーパー学生

(おっ、出たよこれ。)

「どうしたの?」

(部屋の掃除をしていて見つけた地理の問題集を見てたんだがな、この問題文、読んでみろよ。)

「えっと、花子さんは、○○市の土地の特徴と気候から起こり得る災害について調べるために、市の防災施設の職員に話を聞くことにしました。以下はそのインタビューの…」

(はいストップ。凄くないか、花子ちゃん?この大問の最初の問題文から読んでいくと分かるが、○○市について興味を持って、たった一人で調査のために現地入りして、関係者へのアポも自分で取って、図書館とか災害対策施設とか市内中を回って…どんだけ活発なんだよっていう。)

「まあ、問題として出す上では、変に年の離れた専門家を出すよりも共感を持ちやすい学生を起用するのは必要なことなんじゃないかな。」

(いや、そこじゃなくて、普通の高校生でも興味を持った程度でここまで積極的に動き出しはしないってこと。)

「そうかな。学校の課題とかを兼ねているんだったら、これぐらいは普通だと思うけど。」

(いいや、それだったらネットで調べるなり、現地の施設に置いてあるお持ち帰り自由な資料を使うだろ普通。街灯アンケートとか関係機関へのインタビューとか、俺だったらハードル高くて無理だわ。)

「お前だったら、でしょ?世の学生達の大半がお前と同じ性質とは限らない。寧ろ積極的に活動する人間の方が大多数でメジャーとも考えられる。」

(分かった。そこは百歩譲ろう。確かに多くの学生は好奇心旺盛で、興味を持ったものをトコトン追求するだろう。だが、こいつの場合はどうだ!)

「今度は生物の問題集?…次の絵は、太郎君が海で見つけた生物をスケッチしたものです。太郎君の説明の中にある空欄(あ)~(え)とその空欄に入る生物が描かれた絵a~dの組み合わせとして正しいものを…」

(まず絵が上手過ぎ。写真と疑うレベルなんだが。)

「美術の成績が良いんじゃないの?というか、生物取ってるなら、微生物や細胞のスケッチとかもやるだろうし、観察対象を細部が分かるように描き写すのはよくやることなんじゃないの?」

(それは否定できないな。しかぁし!この太郎の説明。ウニの胚葉はうんたらとか、細胞が分化して将来云々とか…専門的なことに詳し過ぎやしないか!?)

「専門的といっても、所詮は学校で習う程度のものでしょ?太郎君は学生なんだからこれくらい覚えていてもおかしくはないと思うけど。」

(でもそう簡単に暗記できるようなものでも)

「近くに教科書か何かあって、それを見ながらの説明とか?というか、ちゃんと日常的に勉強していたら暗記もできないことはないと思うよ。受験に必要な知識の一つだろうしさ。」

(そうかなぁ。)

「納得できないなら考え方を変えてみればいい。一つのゲームの必殺技やキャラの名前を大方覚えられるのは何でだと思う?」

(そりゃあ、ゲームが楽しくて何度も遊ぶからじゃね?)

「それと同じだよ。太郎君にとっては生物が楽しい。だから難しい言葉や理論も、何度も繰り返し触れることで覚えられたんだよ。同様に、ゲームは興味が湧くと積極的に攻略法や裏技、バグや小ネタなんかを調べたりするでしょ。イベントや大会が開かれたら参加してみたくなるし、関連映画やアニメが放映されれば見たくなる。それと同じで花子さんは○○市に興味を持って、積極的な行動を取っているだけ。」

(勉学をゲームのように楽しむ…羨ましい嗜好だな。)

「そういう意味では、確かに彼らをスーパー学生って言えるだろうね。」

(ほれみろ、やっぱり俺の言った通りじゃないか。)

「見方次第ではって話だよ。そもそもお前の主張は、判断基準が自分自身じゃないか。」

(何か文句でもあるか?)

「あるよ。高校生の時、興味を持っていたことは?」

(オンゲーで世界ランク一位を目指すこと。帰宅部だったし、学校が終わったら友達の誘いも全て断って真っ先に家に帰って、ゲーム機を起動して…。)

「クラスにそういう人間が何人いたと思う?」

(多分俺だけだな!)

「それでよく、世間一般の学生代表を語れたもんだ…。」

(ほんとにな。)

「全くだよ!」


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