結花ちゃん

結花ちゃん


 それは、俺がまだ酒を止め始めで日々不確かな酒と自分の関係を何とか探し出そうとアップ、アップの状態でほとんど毎日例会へ出ることで、呑まない日々をしのいでいこうとしていた頃のことだった。

その日は一駅向こうの例会場に行く予定だったので。割りと安心していたのだが、以前数回その例会場に行ったことがあるのでその場所はシッカリ覚えて居ると思っていたにもかかわらず、途中寄り道をして、それを境に土地勘が狂るってしまい道に迷ってしまった。何とか記憶の糸を手繰り寄せながら、それらしき場所にたどり着けたので。

ホット息を付いた瞬間。


「やっぱ、オッチャンはすけべいやねんな、大人しそうな顔しウチのこと

ねろうてるやろう」


と弾むような女の子の声が聞こえてきた、観るよ中学生らしき感じの女の子が、そこの支部の支部長さんとHぃ~話にキャッ、キャッキャいいながら旺盛な好奇心をむき出しに会話が弾んでいる様子だった。一瞬俺は、何でこんな子が例会場の前に居るのか支部長の知り合いの子なのか・・・どうしてもその子と、これからおこなわれる例会の繋がり方が見つけられずにいた。


俺は支部長さんに「こんばんわ」と挨拶すると、その子も俺に「こんばんわ」と会釈してきたので、ますますもってこの子の存在が不思議に気にかかって仕方なかった。


いよいよ例会開始前となって会場内を見渡すと平気な顔で彼女が居るのに驚きの念を禁じえず「エッあの子がアル中!」などと在るべきはずのない妄想が俺の頭を駆け巡った、それくらい俺は世間に疎い。


彼女のことをかすめ観るとノートを広げてなにやら勉強らしき事をしているようだった。ますます持って彼女の存在が気がかりになってきた。


いよいよ例会が始まっていくなか、彼女の存在の摩訶不思議さがなんとも滑稽な感じとなって俺の中でいろいろな幻影が駆け巡りはしたがやはり次々に行われていく体験談に、俺は今日は何を話そうかといったあせりで俺の頭は占領されていった。そして、俺の番が来て一応定番と成っている

体験談を話し終えると、その安堵感から彼女の存在はすっかり頭から消えていた、そこに司会者から。


「次に、家族の川島結花さん。」指名があった。


するとさっきの少女がサックッとたちあがった。


「こんばんわ、ウチは今日もお母ちゃんが帰り道にお酒を買って飲まへん か監視しにきました。

 小さいころ父兄参観の日には他の子等はちゃんとお母ちゃんが来てる のに、ウチのお母ちゃんは約束しても来てくれませんでした。それがメッチャさびしかった、飲んでへんかった頃のお母ちゃんは、ムチャやさしかったけれどスナックで仕事するようになってからお酒バッカリのんでキッショイだけやったけれど、今のところお酒をやめてくれてて嬉しいやけれどまた。いつお酒を飲むか分からへんからウチが監視してんとあかんのんです、ありがとうございました。」


と言ってペタンと座った。


すべての謎が解き明かされたことに少し驚きの念も残ったが、あまりの当たり前さに、チョット微笑ましい滑稽さを感じるとともに。

俺は酒というものが,シゲちゃんの子供はもちろんのこと、こんな子までも巻き込んでいくその得体の知れない不可思議さにあらためて、たじろいだ。

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