第2話 転生夢

これは、私が見た夢の話です。


目が覚めると、私は見知らぬ部屋で眠っていました。

やたらと天井の高い、青い畳敷きのそれなりに広い部屋です。

部屋には一枚の姿見と箪笥があり、床はおもちゃやぬいぐるみで散らかっていました。

知らない部屋で目覚めた私はそれなりにギョッとして、辺りを見回し、自分の状況を把握しようとしました。

そこで気が付いたのですが、私の掌がとても小さいのです。

私は姿見の布を外し、自分の姿を確認しようとしました。

そして更に驚いたことに、鏡の中には3~4歳程度の男の子が写っていたのです。

私はすっかり動転して、戸惑っていました。

夢だとは、全く気が付かないまま。

そうしているうちに、部屋の戸が開き、見知らぬ女性が入ってきました。

色が白く、優しそうな女性です。

彼女が私に「……くん、もう起きたの?」と呼びかけます。

ですが、私にその名前は聞き取れませんでした。

夢だからなのか、それとも動転して聞くことを拒否していたのか……。

微笑みながら近づいて来る彼女に、私は言いようのない恐怖を覚え、彼女の脇を抜けて走り出しました。

背後で、私……じゃない、誰かを呼ぶ声が聞こえてきました。

私は靴も履かずに外へ飛び出し、見覚えのある景色を探そうと必死になりました。

しかし、見覚えのある景色はどこにもありません。

私は家族の、友人の、少しでも見知っている人たちの名前を叫びながら走っていました。

きっと、その人達が近くに居て私の話を聞いてくれるに違いないと思いながら。

そうしているうちに、視界が真っ白になって目が覚めました。

起きるまで夢だと気が付かないほどリアルな質感に、私はびっしょりと汗をかいていました。

まるで、誰かの意識と自分の意識が混じってしまったような、不思議な夢でした。



筆者は金縛りや明晰夢などとは縁遠い人間である。

ましてや殆ど夢を見ない質なのだが、この夢はよく覚えているので記述した。

この時の恐怖は、かつて感じたどんなものよりも強いものだった。

もしも死後、魂が他のものに転生するとして、多くの人に所謂「前世の記憶」と言うものがないのはこのような恐怖を感じないようにするためではないかと筆者は思う。


今、私が「私」だと思っているものが、誰かの「前世の記憶」でないことを祈る。

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