うちのかいだん2
帰無良 若造
第1話 よだれかんかん
これは、私の母から聞いた話です。
40年以上、前の話です。
私はまだ小学校に入るか入らないかの歳で、いつものように庭で遊んでいました。
すると、祖母が
「よだれかんかんが来るよ!」
と言って、私の腕を引っ張るのです。
よくわけが分からないままに祖母について行くと、台所で母が沢山のおにぎりと父のまだ開けていない瓶ビールを漆のお盆に乗せているところでした。
「もうすぐ来るよ」
「よだれかんかんだ、しばらく見てなかったのに」
そう、祖母と母が話していたのを覚えています。
祖母がお盆を受け取り玄関に引き返して行くと、母が私を台所の奥に連れて行き「「良い」と言うまで、ここから出てはいけないよ」と念押して自分も玄関へと向かうのでした。
すると程なくして、シャン……シャン……という鈴のような音と共に、甲高い笑い声が聞こえてきました。
私は幼かったこともあってか好奇心が人一倍強く、出来るだけ静かに台所の引き戸を開けて片目で外を窺いました。
「お上がって下さい。あそばせて下さい。ここにはもうなにもありませんから。どうぞ、気が済んだら引き取って下さい」
そこには、「何か」に頭を下げる祖母と母の姿。
そして、真っ赤な女物の着物を着て焦点の合わない目をぎょろぎょろさせ、涎を垂らした口で笑う「何か」。
髪は無く、女でも男でもないようでした。
「た、た、た、たしかに」
「何か」はそれだけ言うと、おにぎりをその場でむしゃむしゃ食べ、酒を飲み、また鈴の音をさせて外へと去って行きました。
「さっきの人、だれ?」
しばらくして祖母に聞くと、酷く叱られました。
「よだれかんかんだ。子供を見ると興味を持って攫うか、悪いことを起こすから、よだれかんかんが来たら隠さなくちゃならない。あんまり透き見なんてしていると、よだれかんかんが攫いに来るよ」
祖母はそう言っていました。
私が覚えている限りで、よだれかんかんはその後数回、家にやってきました。
学校に入ってからは、よく分かりません。
母が言う「よだれかんかん」が、何者なのかは分からない。
精神を病んだ人なのか、それ以外のなにかなのか。
しかし、どちらにせよ筆者の住む地域で類似した話がいくつかあるのは事実だ。
母から聞き及んだ話が他にもあるので、折をみて紹介したい。
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