小心
ミチノリ君は小心である。
一見何事も無さそうに見えても内心は常にビクビクしている。世間に顔向け出来ないような秘密を隠しているわけでもないし、一方的に世間から理不尽な扱いを受けているわけでもない。ただ何時もビクビクしているのだ。
道の先に警察官が居たとする。するとミチノリ君はそれだけでドギマギする。何も悪いことはしていないのに不審がられるのでは無いかと心配し、ぎこちなくなって余計に不審者っぽくなってしまう。
また、児童の元気な様子を見ると頭を撫でたくなる。しかし、実際には撫でることはない。それどころか近づくこともない。不審者や変質者、誘拐犯と思われないかが心配なためだ。
知人が赤ん坊を抱っこしている。無性に可愛いが可愛いとは口にしない。幼児性愛者だと思われる事を怖れるからだ。その一方で女性にも近づかない。ストーカー、変質者、性犯罪者と思われないか気掛かりだからだ。そして結果的に周りから同性愛者だと思われてないかとさらに心配しているのだ。常に警戒し何も悪いことはないのに勝手に周囲の目を気にしてビクビクしている。それがミチノリ君なのだ。
ある日、そんなミチノリ君も流石にこれではダメだと自己分析してみた。そして、その因子の一端が風貌や身嗜みにあるのでは無いかと思い至る。確かにミチノリ君は髪はボサボサで顔には無精髭。それほど肥満ではないが少し小肥り気味で筋肉質でない分ポッチャリ感が強く、身長は平均的なのでキグルミ的可愛げもない。着ている服装も自分では無難だと思っているチェックのシャツと夏冬兼用のくたびれたチノパンの着たきり雀だ。風呂と洗髪こそ毎日欠かさないが、どう見ても風采の上がらない人相風体である。
自分は内心は至って健全なのに常にビクビクしている原因はこれであったのか。
ミチノリ君は先ずこれから変えていこうと考えて、ハタと思い至る。
急に髪型を変え身嗜みを整えて不審がられないだろうか?
服装が変わったことで色気付きやがってと揶揄られないだろうか?
そもそも何で自分がそんなに周りに気を使わなくてはいけないのか?
自分は何も悪いことはないではないか。
そしてミチノリ君は相変わらず我が道を貫いて過ごしている。
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