化身

乾燥した冬のある日、寝転がりながら鼻をほじる。パリパリとした大きめのヤツが爪にこびりついてきた。そいつを指でくるくると丸めると部屋の埃っぽい片隅に弾き飛ばす。粘りけのないそいつは綺麗に指から放たれ、放物線を描きながら飛んでゆくと埃っぽい床に落ち、埃まみれになりながら少し転がるとバフッと煙をだした。と、そこには私の三分の二くらいの大きさの私が片膝をついて控えていた。ははぁ、これが化身というやつだな。

化身は片膝をついて下を向いて部屋の片隅の埃が積もってるところに控えたまま動かない。もしかすると何か指示されるのを待っているのだろうか?ちょうど昼過ぎで腹が減っていたので何か飯をつくれと言ってみると、そいつはムクリと立ち上がると台所で何かを作り出した。非常に手際が良い。ものの数分で食欲をそそる匂いが漂い、しばらくすると家にあるはずのない食材を使った豪勢な料理が出来上がった。これも化身の為せる業かと感心する。目の前の料理はどれも旨そうで涎が止まらない。ふと化身を見ると誇らしげに胸を反らし、腕組みをしてこちらを見ている。その腕組みをした袖口に鼻水を拭いたカピカピした筋が反射して光っている。鼻の穴から青っぱなが息をする度に覗いたり引っ込んだりしている。なんと汚ならしい。よく考えると目の前の料理も鼻くそが作ったものである。私は急に腹立たしくなったので目の前の料理を全部ごみ袋に捨てた。ついでに化身にもごみ袋に入るように指示し、そのまま口を縛ってごみ置き場に持っていった。ごみ袋を見るといつの間にか化身は消えてなくなっていた。部屋に戻ると室内に光が入り埃がキラキラと舞っている。化身には掃除をさせればよかったと少し後悔した。



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