『Twilight Alley 』シリーズより
“ToT” の夏休み ―希咲と王子ー
【situation】
人気の人外レストラン “ToT” は三日間の夏季休業中。
王子と希咲は極秘旅行を計画し、駅で待ち合せることに。
*****
「……希咲」
「きゃっ……! え……? 王子さん?
どうしたんですか?その変装……」
「あいつらにバレたらせっかくの旅行が台無しだからな。
念には念を入れて変装してきた」
「待ち合わせを駅にしてるって時点で大丈夫じゃないかと思いますけど……。
暑くないですか? そんなに黒ずくめで」
「暑いが仕方ねぇだろ。ただでさえ背はデカいし、金髪は目立つし。
まあ、列車に乗っちまえばこっちのもんだからな。
希咲と二人きりでゆっくりするためにはこのくらいの我慢はたいしたことねえよ」
「あ、列車来ましたよ。
えーと、6号車だからこの辺でいいのかな」
*****
「7-Aと7-B……お、あった。希咲、この席だ」
「とりあえず誰にも見つからなかったみたいですね。
私としては、皆さんと一緒の旅行も楽しくていいかなって思いましたけど」
「職場も住んでるところも一緒になのに、滅多にない休みまで一緒にいるのなんかまっぴらごめんだ。
レストランが忙しくて、なかなか希咲を連れ出してやれないからさ。
たまには二人きりの時間をたっぷり楽しむのも大切だろ?」
「王子さん……。私のためになんて嬉しいです。ありがとう。
そういえば、“ToT” の休業日って、今回の夏季休暇の他は毎年クリスマスの日ですよね? レストランとしては書き入れ時じゃないんですか?」
「ああ。クリスマスは、なぜか体調不良になる従業員が多いんだよ。
キュウとか、わびすけとか……あ、ミイがいなくなったから、今年はその二人だけか」
「キュウさん、十字架克服しても、クリスマスは体調不良になっちゃうんですね……」
「失礼しまーす。切符を拝見いたしまーす」
「あっ、はい」
「……お客様。ペットを車内に持ち込む際にはゲージやバッグなどに入れていただかないと」
「え!? ペット!?
……って、ええーーーっ!?
わびすけがなんでここにいるんだよっ!?」
「クゥーン……」
「わびさん、一体どうやってここまで来たんですか? そして、何を見てチワワに変身しちゃったんですか?」
「あっ! いたいた! おーい!タマちゃーん! 希咲ちゃーん!」
「んなっ!? キュウ!? なんでお前がここにいるんだよっ!!」
「わびちゃん用のキャリーバッグ持ってきておいてよかったよ~。
まさか行きの車内でロコモコ駅弁の目玉焼き見て変身しちゃうとは思わなかったけど。
あ、車掌さん。この車両の7-C〜E、それと6-A〜Eと、8-A〜Eの指定席特急券と乗車券はここに全部ありますから」
「おいっ! どういうことだよっ!?
なんでキュウがそんなに沢山の切符を……」
「ここが6号車ね!
あっ、いたいた! タマ!希咲ちゃん!やっほー♪」
「あっ、美久さん!」
「姉さんまで……って、
うわー! お前ら!!
なんで皆揃ってるんだよっ!?」
「タマちゃん、水くさいなあ。
黙ってお出かけしようなんて思ったって無駄だよ?
サトリンがタマちゃんの下心を読んで、むっちゃんが情報収集してくれたから、二人の計画はすべてお見通しだったってわけさ」
「てめーサト!
俺の心を読むなってあれほど言ってるだろーが!」
「読もうと思って読んだわけじゃないよ。
王子が希咲ちゃんとあれこれ楽しみたいっていう下ゴコロがダダ漏れだったんだよ」
「くそうっ……! しかも、ろく!
お前は夢魔の情報収集能力を悪用して
余計なとこにその力を使うなよっ!」
「余計なことじゃない。せっかくの夏休みを皆で楽しく過ごすために必要なことだと判断したんだ」
「く……っ。
どいつもこいつも俺の綿密な計画を邪魔しやがって!」
「ふんもお」
「……うっしー、慰めてくれてありがとよ。
ってかお前、
そして、フラ。首と頭にデカイ穴あいてんぞ。いつも打ち込んであるボルトはどうしたんだよ」
「危険物は車内に持ち込まないでくれって、ホームで駅員に没収されたよ」
「そ、そうか。頭や首にぽっかり穴あいてる方がよっぽど危険な感じがするけどな……」
「まあまあ!とりあえず席に座りましょ!
せっかくの“ToT” の休業日ですもの!
みんなで慰安旅行楽しむわよー!」
「姉さんは従業員じゃねえだろうが……」
「ちなみに明日は“ ToT” の食材調達のために、超新鮮な朝産み玉子を皆で拾いに行くからね!」
「何言ってんだよ!!
それじゃあ慰安じゃなくて拷問だろ!!」
「部屋割りも、男性と女性でそれぞれ大部屋に分かれるからね! 希咲ちゃん、みんなでガールズトークしようね♡」
「あ、はい!楽しそう♪」
「男子チームはウノやろうよ!」
「おっ、サトリン準備いいね~♪」
「宿泊先の部屋も勝手に変えられてんのかよ。
全くお前ら、どんだけ俺のことが好きなんだよ……」
「将来の魔王としては、人望ならぬ魔物望があっていいんじゃないの? タマちゃん♪」
「……もうヤケだ。
こうなったらウノも玉子拾いも楽しんでやるーっ!!」
─おしまい─
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます