第5話冬
さくらちゃんが学校に来なくなってから一週間がたった。
もうすぐ来る期末試験に向けてもうすっかりクラスは勉強モードである。
竹中さんと私は学校に来ていたけど、お互い一人で行動していた。山下先生も学園祭の後から学校に来なくなってしまった。今まで代理の先生が代わる代わるHRをやっていたけれど、今日の終礼で副担任の先生が新しい先生を連れて来た。
「山下先生はしばらく来れなくなるので代わりに担任を務める胡桃先生です。」と、副担任は言った。
「少しの間だけどよろしくお願いします。」と胡桃先生は言った。
みんながほわーって先生に見惚れているのがわかる。綺麗な先生が来たから教室がざわざわしはじめた。
私もびっくりしたけど嬉しかった。なぜなら胡桃先生は事情をわかってくれている。
山下先生より全然いい!と一人を除いてクラス全員が思った。
なんだって?竹中は胡桃先生を見て頭から血の気が引いた。これはあまりにも…似すぎている。私が昔遊んでいた人形に。それも名前もくるみちゃんと呼んでいたのだ。あの長く黒い髪、あの目何よりその普通ではありえないほど斜めに切った前髪、それは私が小さい頃に間違えてくるみちゃんの髪を切ってしまったのと同じだ。それに私がビーズで作ってあげたネックレスも同じ。白いビーズの中に1つだけ間違えて赤いビーズを入れてしまったのだ。そんなの私しか知らない。服までは覚えてないけど、でも間違いない。どういうことだ?
思わず胡桃先生から目を逸らしクラス全体をざっと見渡す。みんな新しくきた先生に喜んでいるようだ。桃子のやつもにやにやしている。気持ち悪っ!
不意に誰かの視線を感じた。顔を上げて見てみるとやっぱり胡桃先生だった。
もう避けられないのかもしれない。
真相を突き止めないと。
その日の放課後竹中は胡桃先生に面談を申し込んだ。ロビーで待っていると胡桃先生がきて「ごめんね、待った?」と言った。「いえ、全然。」
こわばった顔でそう答える。
そして私は面談室に連れていかれた。
面談室は二畳ほどの広さしかなく、机が置いてあって向かい合うように椅子が2つ置いてあるだけだ。
「座っていいよ。」後から入った先生が電気をつけながらそういう。私は座った。先生も席に着き、「では、はじめましょうか。」と言った。
ここまでは普通の先生のように思える。でも普通じゃない。竹中は思った。なんだか違和感がある。その瞬間、竹中は気づいた。
この人には影がない!
顔が真っ青になって足がガクガク震えるのがわかる。竹中は勇気を振り絞ってこう言った。
「あなたは、誰ですか?なぜ影がないんでしょうか?」
胡桃先生は大きな目を見開いてから、にやりと笑った。
「また会えて嬉しいわ。竹中真里ちゃん。私が誰だかなんてわかってるくせに。そうだ、昔から言いたかったんだけどこの前髪、結構気に入ってるわ。」
やっぱりそうだったのだ。信じられないけれどそうなんだ。かつて自分の友達だった人形に再会して嬉しいというよりは怖かった。やっぱりくるみちゃんには血が通っていない気がする。
まだ桃子のほうが見下してきたけど人間味があった。
「どうして人間になったんですか?
それに担任なんて…」
くるみちゃんは答えた。
「そりゃ私の大好きな女の子たちが困ってるっていうから。助けてあげようと思って。気づいたら人間になってたのよ。もう1ついいことしてあげたわ。」
「いいことってなんですか?」
「真里ちゃんがいじめられていても見て見ぬフリをしていた担任を消してあげたの。」
「消すって…山下先生は具合が悪いのでは?」
うーん、とくるみちゃんは首をかしげた。
「学校は失踪したって知ってるみたいだけど生徒には教えてないのねぇ。
本当は私が殺したのよ。」
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