赤いシャツの男
珠宮 黒
第1話
小学校の修学旅行のことです。
修学旅行の企画で「ナイトハイク」っていう、まぁ簡単に言えば肝試し的なイベントがあったんです。
それも先生だけではなく、ホテルの従業員さんたちまで手伝ってくださるような。
具体的には、私たちの恐怖心を煽るように怪談話をしたり、話の怖いところで急に扉を『ガチャガチャッ!』ってしたりして何人かマジ泣きさせてました。
その怪談話の大まかな内容なのですが、
『近くの神社でとある一家が心中をした。
父親(長男だったかもしれません)は家族をバラバラにして殺すと、自分は首を吊った。
翌日発見された父親のシャツは返り血で真っ赤だった。
それ以来、その神社では赤いシャツの男が現れて——』
といったものでした。
そんなこんなで泣いた子が泣き止む間も無くナイトハイクはスタートしました。
内容は男女で二人一組になってホテルの周辺を一周してくるというものでした。
先生には、立ち止まったり走ったりして他のチームの子と合流しないようにと言われていたのですが、幸い?にして前後のチームの子たちが仲の良かった子達で、歩くペースを調節して結局6人で行動することになりました。
止まっても走ってもないからセーフです。
そのコースのなかで、怪談話に出てきた神社の、お堂の側の脇道から入って鳥居の方に向かって歩いてく、というところがありました。
その道を三分の一ほど進んだあたりのことです。
急に赤い服を着た大柄な男が鳥居の辺りを右から左にかけて行きました。
しかし、神社の左側は自然公園の湿地の様な、歩道以外立ち入り禁止の場所で、その歩道も神社から繋がっているのは私たちが入ってきた脇道だけでした。
だから、その男はけして多くはない木の影に隠れることしか出来ない、そう思い、注意しながら進みました。
はたして、いました。黒い服の校長先生が。
しかし、校長先生に聞くと、そんな男は見ていないといいます。
だから、私は校長先生が犯人だろうと結論付けました。
似ても似つかない体型やどこにも見当たらない赤いシャツのことはないことにして。
と、いうのが小学生の頃、私が本当に体験した話です。
しかし、この話はこれで終わりではありません。
時間は中学生の夏休みまで進みます。
私は、夏休みに部活の合宿で肝試しをすることになりました。
適当にジャンケンで二人組を作ると、私とペアになったのはナイトハイクで一緒に回った六人のうちの一人(以後Aとします)でした。
あまり怖いものでもなかったので、私達は怪談話をしながら進んでいました。
その時、ふとナイトハイクのことを思い出した私は、あれはただの見間違いだったのか、それともみんなにも見えていて、校長先生の可能性が高いのかが気になり、Aに確認のつもりで聞いて見ました。
Aの答えは、『見た』でした。
やはりAも謎ではあったらしく、お互いの記憶を擦り合わせる様に話をしました。
しかし、どうしても噛み合わない部分が出てきてしまい、私は意を決してAに聞きました。
「赤い服の男は右から左に駆けていったよね?」と。
ところが、帰ってきた答えは予想していたものとは違いました。
「えっ?鳥居の下で体育座りしてたのじゃなくて?」
まさかと思った私達はもう一度、確認し始めました。
「見たタイミングは?」
「三分の一ぐらい進んでから」
「場所は?」
「鳥居の下でしょ?ちょっと手前で」
「そこにいた人の特徴は?」
「赤い服で暗くて遠いところにいても男ってわかる様な大柄な体型」
ここまでは同じです。
「赤い服の男は何をしてた?」
「参道の真ん中で体育座りをしてた。ちょっと目を離したら消えちゃったけど」
やっぱりここだけが違うのです。
見た場所、タイミング、謎の男、それは同じなのに、その男がしていた行動だけが違う。
私達が見たものはなんだったのでしょうか。
これで私が経験した不思議な怪談話はお終いです。
私は特に危ない目にはあってないので、呪われたりはしてなさそうですが、怪談話を全くの作り話、と考えるのはやめたほうがいいかもしれません。
いつか「本当なのは一部だけ」じゃ済まなくなるかもしれないのですから。
赤いシャツの男 珠宮 黒 @tamamiyakuro
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