第198話
「あぁ夢子ちゃん、もう話す事もできないのね……躰は冷たくなっても、血はこんなにもまだ熱いのに……」
元の色がわからなくなった下着……血塗られた舞のベビードール……話す事さえ「許されない」わたしの意識……。
「死ぬのね……」
わたしの「中」で呟いた……これまでの人生が再生される現象など起こらない。
もう躰から自由に血が流れ、わたし自身が終わってゆく……。
走馬灯なんて……ありもしない。
あるのは死という現実と、それ故に研ぎ澄まされ、鮮明に残る塩おむすびの素直な味覚……。
そうか……絢爛豪華な食材など、死の前では下品な装飾に過ぎないのだ……。
死……故に簡素な素材、味覚が映え、人の死は美しく彩られる……。
朦朧とした意識で見たガラスウォールには、何故か薄笑いで「悟った」わたしと、恍惚な表情で人形を愛でる様にわたしを抱く舞が……そのうしろで、わたしと舞を羨ましそうに眺めるヴィーラヴ達がソフトフォーカスで映る……。
「寒い……寒いよ……舞」
「わかってるわ夢子ちゃん……このままずっと抱きしめてあげる……」
「夢子ちゃんの瞳が閉じるまで……」
「わたし……本当に死ぬのね……」
「そう……でも夢子ちゃんは新しく生まれ代わるのよ……」
「ま、またそんな冗談言って……」
「本当の事よ……次に目を覚ましたら、今の人間以上に人間らしくなっているわ……」
「舞……」
「だから、安心して休んでね……」
「…………」
「さよなら夢子ちゃん……私達がいなくなった世界をよろしくね……」
「そして……」
「ヴィーラヴを愛してあげて……」
「さようなら……」
「夢子ちゃん……」
わたしには既に何かを言葉にする力が残っていない……。
舞に抱かれ、舞の指がわたしの頬を優しく撫でる……舞の体温と甘い香りに、血だらけの躰と薄れゆく意識を委ねる……。
ヴィーラヴ達は、そんなわたしに微笑む……。
命が……終わる……。
舞とヴィーラヴ達の「愛」に包まれて、わたしは少し歓びの表情の「遺言」を残し……瞳と人生を閉じた……。
あれからどれ程の時間が経過したのか……。
ミネルヴァの言葉曰く、それを考えても意味がない……。
しかし「人間」としての思考という「遺産」が、数十年いや、それ以上経過しているであろうこの世界を体感しても尚、わたしの「躰」の中で燻っている……。
荒廃した建築物……荒れた大地……これも「人間」という「愚か」で上から目線で形成された偽りの心眼。
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