第197話

「そう……もっと一緒にいたいのね……」


「ええ……」


「その言葉を待っていたわ、夢子ちゃん……」


「…………」




「じゃあ、これからも……」


「ヴィーラヴを……」


「愛してね……」






「えっ……?」


 床に落ち、転がるおむすび……。




 熱い……。


 寒い……。


 痒い……。




 痛い……。


 相反する反応を繰り返す、わたしの躰……。




「うふっ……」


 わたしに密着し、自分の行為に「悦び」の感情を漏らす舞……。




「舞……どうして……」


「私はね……死ぬの……」


「舞……何を言っているの……」


「この世界は……終わるの……」


 わたしの耳元で舞が囁く。


 囁き声に絡みながら、痛覚という反応に「統一」されてゆくわたしの全て。


 痛み、苦しむ有様を楽しむ様に、わたしの背中に華奢な指を這わせ、研ぎ澄まされた刃先をわたしの奥に侵入させる舞……。


「うぐっ……」


 循環ルートを外れ、体外に流出する血液……。


 白い大理石を、塩おむすびを紅く染めてゆく。




「痛いよ……舞……」


「あぁ夢子ちゃん……可愛いわ……」


 背後で悦に入る舞の蕩け声。


「ど、どうして……こんな事……」


「だって夢子ちゃん、受け入れたじゃない……愛を……」


「愛……」




「惚けてもだめよ……流花と葵はどうだった……」


「舞、あなた……まさか……」


「知っているわ……でも今回だけでなく、前からふたりの愛を楽しんだでしょう……いいの、別に流花と葵に限った事じゃないの……夢子ちゃんは私の誘いに、ここに来た時点でヴィーラヴの、私の愛を無意識に受け入れてしまっていたの……」


「…………」


「いいでしょ、ヴィーラヴは……愛おしく、純粋で、透明で、人間よりも人間らしい……」


「い、言っている意味がわからないわ……」


 わたしの「無理解」に苛ついた舞が、わたしの奥に更に想いを突き刺す。




「もう……やめて舞……何だか、寒いわ……」


「うふっ、やめない……だって夢子ちゃん、ここで死ぬのよ……そして、生まれ代わるの……」


「えっ……」


「寒いのね……いいわ、わたしが温めてあげる」


 その瞬間、わたしは自立姿勢を保てなくなり、血の海の床に崩れ落ちた……。


 背後から抱きついたままの舞が衝撃を吸収し、より優しくわたしを包み、耳元で囁く……。




「人間の世界はね、もうすぐ終わるの……私はこの世界で歩みを終えるけれど、夢子ちゃんには次の世界を託したいの、ヴィーラヴ、いいえ、愛人形アイ・ドール達と一緒に……」


「…………」

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