第195話

 舞とはこれまでの空白を埋めるべく、濃密に語りあった……。


 女子校時代の話……。


 卒業後の話……。


 わたしの悩み……。


 舞の苦悩……。


 わたしのこれから……。


 舞のこれから……。


 舞とヴィーラヴのこれから……。


 わたしと舞とヴィーラヴのこれから……。


 時に上質なお酒の力を借りて昔を懐かしみ、今を語り、泣き、笑い、空白の時間を埋め固めた。




 しかし、結局どうして舞の恋人が突如として消えたのか……それを尋ねられなかった……。


 それを聞いたら、舞とヴィーラヴとの関係が終わってしまう……そんな「恐怖心」があった。


 でも「そんな事」を聞かなくてもいい……気分が堕ちる話など、わたしも聞きたくないし、舞も話したくはないだろう……舞がいて、ヴィーラヴがいる……十分な恩恵に預かっているわたしがいる……。


「それで……いいじゃない……」






 あっという間の10間日……。


 レースカーテンから透ける太陽の光が、柔らかく射し込むベッドルーム。


 舞とヴィーラヴを記録したICレコーダー、デジタルカメラ、原稿の下書きが入ったノートパソコン……終盤、プライベートタイムでアリスに強奪されたスマートフォン……わたしの想い……。


 それらを携えてわたしは今日「平民」に戻る。


 わたしの両脇で可愛い寝息を立てている裸体の流花と葵を起こさないよう、わたしはマットレスから身を起こし、乱雑に床に散らばった下着類から自分のものを選び、快楽の残り火で火照る躰に装着する……。


 どうしてか服は着ずに、わたしの躰は自然とリビングルームに向かう。


 誰もいない……。


 足と心が無意識に窓際へと吸い寄せられる。


 ひんやりとした感触の大理石タイルのフロアから、天井まで伸びたガラスに、直に太陽の意思が刺さり、わたしの躰を炙る。


 レースカーテンを引いた窓から「悦び」の余韻に浸る……。




 下着姿……。


 誰かに見られている……。


 ここは45階……わたしが住む「下界」ではない。


「見たければ、どうぞお好きに……」


 慌てる事なくわたしの心は、卑猥で、ありもしない視線を一掃する。






「おはよう……夢子ちゃん……」


 繊細で上質な生地で構成されたベビードール姿の舞が、ふんわりと笑い、言った。


 射し込む朝の光に、パールホワイトの糸で紡がれた織り目が反応し、舞の躰を煌めかせる……。




「おはよう……舞」


 わたし達は並び、しばらく何も語らず、極上の輝きを浴びた……。

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