第193話

 まだ短い時間だが、舞と彼女達の風景を見ていると、時折垣間見せるマネージャーとアイドルを超越した魂と魂の繋がりが、わたしの深層を擽る。


 スケジュールタイム表を渡され「私はちょっと他の仕事があるから……」と言い、抜けた舞を失い不安なわたしの心を、ヴィーラヴや支えるスタッフ達に助けられ、彼女達が住まう高層マンションに着いた時はもう取材初日という日が終わり、新たな日が始まろうとしている時刻だった……。


 これから「冴えない」自分のアパートに帰り、今日の記事や写真、動画を少し編集して……なんだか気分が落ち込む……。




「それじゃぁ舞……また明日……」


「何言ってるの夢子ちゃん……」


 舞が「どうして?」と言わんばかりの表情でわたしを足止めする。


「今日から10日間は、ここが夢子ちゃんの家なのよ……」


 舞が言うと、ヴィーラヴから歓声が上がる。


「でも……」


 と、わたしは口では戸惑いを見せながら、やはりこの「環境」での生活にも興味はある……プライベートな部分もわたしが撮影し、配信できる。


「わかったわ舞……じゃあ、お世話になります」


 断る「理由」のないわたしは、誘われるまま舞の提案に乗った。


 この後の円滑な取材の為にも、選択肢はなかった。


 歓声がより音圧を増す……。


 45階建高級高層マンション……その最上階……本来6戸で分譲される筈だったものを全てドロシーエンタープライズが購入し、彼女達そして舞の住まいに充てているという。


 悠々と最上階を占有し、自由に各戸を行き来できる様に改築を施した住まい……。


 僅か数日とはいえ、わたしもこの地位とここから見える風景、ヴィーラヴを「独占」できる。


 しばらく「ウサギ小屋」に帰らなくてもいいわたしの心は都合良く高揚する……。




「まぁまぁ、ソファーで寛いでよ夢ッチ……」


 甘い葵の招きで、買えば最低数百万円はするであろうソファーに腰を下ろす……。




「夢ッチ……起きて!」


 程良く柔らかくかつ、適度な硬さのソファーに躰を預けていたわたしは、緊張と安堵が混ざり合い意識が落ちていたのだろう……アリスに起こされた時には、これまた高級なダイニングテーブルとダイニングチェアが配された空間に、万希子さんと万希亜が調理いたという手料理と、デリバリーした料理がテーブルに並び、舞とヴィーラヴがわたしを待つ……。




「さぁ夢子ちゃん……食べましょう」


 舞が言うと同時に、わたしの躰は「すくっと」起き上がり、ダイニングルームに「駆ける」……。


「ち、ちょっと待ってよ夢ッチ……」


 アリスがわたしの後を追ってくる……。


 既に新しい一日が始まっている……今日もスケジュールが詰まっているというのに、わたし達の「宴」は、まるで女子高生が食パンをくわえながら「遅行、遅行ぅ……」と玄関から駆け出す頃の時間まで続いた……。

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