第192話

「気に病む事はないわ……」


 舞はそう言った……そして笑いながらこう続けた……。


「仕事の部分も、彼女達のプライベートな部分も遠慮せず、ありのままに撮ってあげて……それで得られた薄っぺらな利益は、俗物が棲まう夢子ちゃんの会社に全部くれてあげるわ……」


 思わずわたしは吹いてしまった……。


 舞の「優しさ」が、心地良かった。


 そして会社の思惑どうり、期間限定動画配信チャンネルの登録数は「天文学的」な数となり、そこから有料配信に課金する者達も「同数」となるのだろう。


 一方で「優しさ」……一方で欲望なる「重圧」が、わたしにのしかかる……。




「早く、夢ッチ……」


 万希子さん、キャロルアンにもっと迫りたいわたしの思いを「私達も見て、感じて」と雪と葵の気迫が上塗りする。


 手を引かれる先には、新メンバー3人が待ち構え、複数のティーン雑誌の取材及び撮影が行われる。


 同時進行でモカ、モコは大手食品会社と衣料品会社のCM撮り……アリスは単独でファッション雑誌の撮影と、ソロとして2曲目の仮レコーディング……詩織と流花は、ドロシーエンタープライズが育成する「次世代」アイドル達の指導と、それぞれに持てる能力を披露している……。


 わたしは、時間と時間の境目を舞い、彼女達の「全て」を記録しなければならない。


 が、ヴィーラヴの活動はそれらが全部ではない……各々のスケジュールをこなした後、全員が揃い週一で配信されている「ヴィーラヴ全員集合!」の収録が控え、更にその後には、仮セットが設営された地下スタジオにおいてセカンドライブの稽古が待っている……。


 取材初日にして……わたしの膨大な作業。


 しかし、わたしの戸惑いも関係なく全てがタワー内で賄える環境に身を置く彼女達には、これが日常であり、苦痛や辛さなど感じていないのかもしれない。


 ティーン雑誌、ファッション雑誌のライター、カメラマン……「お疲れ様です」などとわたしに声をかけてくるが、その目は「嫉妬」の情が滲み出ている……。


「気にしなくていいよ……夢ッチ」


 詩織がさりげなくわたしを励まし、手を握る。


 12名の大所帯……。


 彼女達は、自分の仕事内容、タイムスケジュール、役割を完璧に理解し、管理している。


 故に舞はヴィーラヴに複数のマネージャーを就けてはいない……。


 社長業に専念してもいい舞が現在もチーフマネージャーであり続け、実質ドロシーエンタープライズエンタテインメントは、3人の副社長が動かしている……。


 それができる舞の環境、立場……井上・ペターゼン・礼子との強固な信頼関係……。


 あくまで、ヴィーラヴのマネージャーは舞であり、それが揺らぐ事はない……まるで舞の「所有物」であるかの様に……。

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