第191話

「それじゃ舞……また明日……」


「何言ってるの夢子ちゃん……もうここは夢子ちゃんの家も同然なんだから、取材の間はここで過ごしてもらうわよ……」


 わたしなんかが、住む事の許されない高層マンションの最上階から展開する夜景に、舞の想いが重なる……。


「ちゃんと着替えと部屋も用意しているから」






 1ヶ月後に迫るヴィーラヴセカンドライブツアーに向けて、彼女達の周りは慌ただしい。


 わたしもその中に組み込まれた……。


 ファーストライブツアーから、おあずけをくらい「実体」を崇める事が叶わなかった者達の「怨念」という忠誠心が、チケット予約開始後1秒もかからずに全公演完売という「供物」をヴィーラヴに捧げた……。


 今回も前回同様の順番と公演数で各ドームを巡る巡礼旅……更に加えられたのが、日本武道館2日間と最終公演の新国立競技場2日間公演……。


 今更ながらにして、新メンバーの御披露目を兼ねたセカンドライブツアーは、神話を超えて何と評されるのだろう……。


 筋書きを描いているのは舞なのか、それとも影に潜み、舞を巧みに操る者達なのか……。


 いや、操る者などいない……舞はそれらを一蹴する立場の社長なのだから。




「夢ッチ、次はこっちだよ……」


 万希子さん、キャロルアンのウェブラジオ収録の様子を取材中に、雪と葵がブースに乱入し、ふたりがわたしの手を引く……。


 業界の話を裏付ける様に、ヴィーラヴの活動はツインタワー内で「完結」する。


 取材初日にして体感するタワーの威力。


 舞からは取材の参考にと、とりあえず3日分のスケジュールタイム表を渡された。


 空白時間を探すのが嫌になる程に過密な予定……なるべく全てを記録したいわたしは、スケジュールタイム表を睨み、難解なパズルを解く様に「効率」のいい取材工程を算出しなければならない。


 インタヴュー、スチール撮影、動画配信……アシスタントがつかない独占密着取材……故に全てをひとりでこなさなければならない……「手伝ってあげるよ……」アリスやモカ、モコ、ゴールドマリーが言ってくれたが、初日から甘える訳にもいかない。


 無論、特集記事は後日わたしの所属するティーン雑誌にて掲載、発売するが、動画配信はほぼ、無編集で同日に無料配信する……。


 既に彼女達は「ヴィーラヴ*チャンネル」という有料配信チャンネルを持っているが、舞から聞いたところによると、わたしの出版社側が新たな期間限定動画配信チャンネル開設のアイデアを提案したという。


 そして「あざとい」事に、彼女達が活動している範囲は無料配信とし、僅かに垣間見れるプライベートタイムの部分を有料配信にして、その利益を貪ろうというのだ……。


「俗物……」


 思わず呻いた……。


 がしかし、その俗物どもを喜ばす映像は、わたしが撮影し配信するのだ……。



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