第190話
容姿、躰つきが「劇的」にあの頃から変化している訳ではない……。
寧ろ幾分、若返っている様にも見える。
舞の全身から湧き出るオーラが、この場を程良く締める……。
わたしが「纏っている」代物とは格が違うスーツを着こなしてわたしに近づく舞。
ただ異なって見えたのが、綺麗でしなやかでも「あの舞台」では地味な感覚だった黒髪が、緩やかなブラウン色に「塗装」され、少し長さが増している。
ガラスウォールから射し込む太陽の光が、舞の髪を妖艶に煌めかせる……。
その髪が上品に揺れ、ヴィーラヴさえも羨望の目で見つめている舞の仕草の全てが、わたしとの差を否応にも示す。
「何だろう……この差は……」
絶望と羨望……。
「夢子ちゃん……」
「夢子ちゃんっ……!」
ぼやけた意識を叩く舞の声。
「はっ……」
「た、高樹社長……」
叩き起こされた意識が、わたしと舞との「格差」を認識し、偽りの呼び名を口から紡いだ。
「んもぅ、そんな呼び方はやめて……」
少女の様に可愛らしく頬を軽く膨らまし、官能的な躰をわたしに密着させ、舞は意地らしく言った。
「あの頃の呼び名で呼んで……」
舞が甘い香りを燻らせ、誘う……。
「舞……」
わたしが素直に反応した。
その時、舞の体温が僅かに上昇した。
「夢子ちゃん……」
わたしから離れ、言った舞の瞳が潤んでいるのが嬉しかった。
正直、社長に就任し「威厳」を全身に纏い、わたしに対しても高圧的で冷たい対応で向かってくるのではと、頭の中で妄想し恐れていたわたしの意識と躰は、舞のままの舞を体感して、ようやく解きほぐされた……。
変わらない舞と、変わった舞……聞きたい事はたくさんある……。
あの頃から現在までの「欠けた」友情と時間の谷間を埋めるべく語らい、ふれ合いたい……。
衝動は尽きないが、わたしには与えられた使命がある。
嫉妬と「画策」めいた情念の山の頂上に担ぎ上げられたわたしの成すべき事を……。
その為に、舞はわたしを「指名」したのだから。
「改めて紹介するわ……私の高校時代の同級生……いいえ、親友の夢乃 夢子さんよ……」
「今日から10日間、私とあなた達の密着取材をして頂きます……だから、包み隠さずありのままのヴィーラヴを見せてあげてね」
「わかりました……」
「それと夢子ちゃん……彼女達の事は呼び捨てでいいわよ……詩織、アリス、それでいいわね」
詩織さんが、ヴィーラヴの全てを見せると誓い、続けた舞の願いにも頷き、仕掛けたアリスも微笑み、深く頷くと、わたしに寄り添う舞とヴィーラヴ。
心の距離が縮まる……。
彼女達と舞は、否応なくわたしの意識と躰、そして「魂」の快楽中枢を刺激して、やがて支配してゆくのだろう……。
それでいい……その時は思った……。
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