第188話

 真面目に固執し、彼女達の御機嫌を損ねるのも今後に支障をきたす……大人の狡賢さにかまけて、アリスさんの提案を受け入れた。


「そ、それじゃあ、よろしくねアリス、モカ、モコ」


「うんうん……そうでなくっちゃね……いやぁなんか初めて逢った時のマイマイみたいで懐かしいなぁ……」


 アリスが感慨に耽る……。


 しかし、何故こんなにも彼女達は「瑞々しい」のだろうか……。


 頃合いに熟した果実の様に……。


 年齢を重ねているのに、若返って見える佇まい。


 これが、頂点を極めたアイドル、人間の究極の姿なのか……アリス、モカ、モコで既にわたしとの圧倒的な差……全員と出逢った時、わたしはわたしを保っていられるのか……。


 舞も、この「果実」の香りと実を味わい、くすんだ魂、躰、人生を浄化させたのか……。




「アリス、サプライズは済んだ……」


 秘書に招かれ入ってきたドアとは別のドアから、リーダーの詩織さんがこちらに歩きながらアリスに尋ねる。


 そうか……詩織さんが入ってきたドアからアリス、モカ、モコはそっとわたしを背後から脅かしたという事か。


「あっ、うんリーダー、終わったよ……」


 もう少し、わたしの「組成」を見極めたかったのか、アリスの声には幾分不満そうな情が滲む。


「またそんな不服そうな声で……って言うか、これ以上アリス達の遊びに夢子さんをつき合わせていられないよ……ねっ、夢子さん……」


 アリスが「にひひ」と笑う……ふたりとも「わかっている」問答をわたしに披露し、ヴィーラヴの結束を印象づけかつ、わたしを気遣う詩織さん。


「あなたが夢子さんですね……いつも舞さんからお話は聞いていました……」


 万希子「さん」が詩織さんの横に並び、弾み気味な声と繊細な容姿で言った。


 彼女がメンバー間で何故「さん」づけで呼ばれているのか……わたしの中でずっと解けていなかった疑問の「解」は、万希子さんを感じる事で一瞬で解けた……。


 ふたりに続いて、葵さん、流花さん、雪さん、キャロルアンさん……少し遅れて、新メンバーが社長室になだれ込む。




 万希亜まきあ・アルテライネン


 春冬院しゅんとういん スミレ


 エルミラ・ヴァインツ・ゴールドマリー


 神話と評されるファーストライブツアー後に盛大に行われた、新メンバー全国オーディションを勝ち抜いた3人……。


 加入当時の年齢は万希亜さん、スミレさんが共に12歳……ゴールドマリーさんに至っては、9歳という低年齢に「世界」は驚愕した……。


 驚きから至る現在……彼女達もオリジナルメンバーに馴染み、溶け込んだ。

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