第186話

 今度はわたしが「妬み」の対象となる。


 けれど、怖くなどなかった……。


 10日間に及ぶ舞とヴィーラヴの密着独占取材。


 編集長や出版社の「戸惑い」なんて、知った事か……わたしはあなた達よりも「人生」の質で抜きん出た……。


 少しの時間、そう悦に入ってもいいじゃない……魂が照りつき、心は快で炙られる。






「はぁ……」


 偽りの高揚から数日……密着取材初日。


 そうなのだ……よくよく考えれば「妙」な話……。


 わたしは、舞がいるであろう太陽の光がガラスウォールに反射し、眩しい輝きを放つタワーの先端を目をしかめながら見上げる。


「あそこに……舞が……」




 再会……。


 舞はわたしを……「こんな」わたしをどう迎え入れるのだろう。


 エントランスを抜け、受付で名前を告げた……「お待ちしておりました」とばかりに、磁気カードの入ったストラップを渡され、受付の奥にある役員専用エレベーターを案内される……。


 言われるまま歩を進め、エレベーターの前に立つが「普通」のそれとは勝手が違う事に少し時間を要した。


「あっ……」


 首にかけたストラップの磁気カードを、エレベーターの認証部分に「勘で」かざす。


 扉が「すうっと」開き、わたしはエレベーターの内部に収まる。


 扉が閉まり「勝手」に階が指定され、上昇してゆくエレベーター。


 静かな空間……何故か感じる「気まずさ」。


 引き返そうか……


 そんなわたしの思いを「断罪」したエレベーターは指定されたフロアに到着し、扉が開かれる。




「夢乃 夢子様ですね……お待ちしておりました」


 モデル……あるいは女優……待ち構えていた女性は、淑やかな声と仕草で「虚ろ」なわたしに言った。


 なんだろうこの女性は……この眩しさは……。


 わたしの心は、慌てる……言葉が出ない……同じ女性に「弱み」を悟られまいと軽く会釈し「社長室へ御案内します……」と歩き出した女性の後に続く。


 彼女が秘書だという事は、普通に考えればすぐにわかる筈なのに……。


 細身の躰、括れた腰……引き締まった脚線美……上質なスーツスタイル。


 それに比べわたしの格好は、急ごしらえにスーツを「纏っている」とはいえ偽装感は否めない。




「こちらでお待ち下さい……」


 秘書が重厚な木製のドアを開け、わたしを室内へと案内する。


 異空間に「侵入」する……。


「社長は少し遅れて参りますので、ソファーにかけてお寛ぎ下さい……」


 そう言って秘書はドアを閉めた。




「…………」


 広く、静かな空間……。


 下界の喧騒が「浄化」された、清浄なる世界。

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