最終部8「わたあめ」
第177話
月があり、雲が覆い、雪が降る……。
月が現れ、雲が覆い、雪が降る……。
なんとも不思議な空模様が繰り返される……。
ライブも後半にさしかかった頃、会場から浴びる「熱」と自身から放出される「火照り」を冷ます為、月でも眺めようと外に出て見上げた空は、私に気まぐれな表情を見せる……。
雪が止み、雲が払われ、天空に純白な輝きを放つ満月……。
「美しい……」
魂が呼応する。
こんなにも凛として、淑やかな佇まいの月の下で、私達は何をやっているのだろう……。
果てしなく行われる無用な競争……欺きによって自らを偽人化させてゆく思考……。
陰惨極まりない事件や、愛する者までも地の底に陥れる謀略。
何処までも堕ち果てる道徳……。
権利者という道化師と、それらに寄生し取り憑く者達が繰り広げる地位の維持……その為なら、良心、常識をも封印し、魂を偽る……。
この世界の何処が煌めいているというのか。
偽りの魂が蔓延る世界において、美しく輝く未来を私達は築き続ける事ができるのだろうか。
「無理でしょうね……」
私の心に語りかけてくる。
誰なのか、私にはわかっている。
「そうかもしれないわね……」
語りかけてきた相手……月に私は応えた。
「だから皆、いなくなるのよ……あなたが見下ろしている世界から……」
月はずっと観ていたのだ……私達が存在する遥か前から天空に輝き、この惑星の変容を数十億年、観ていた。
月からは、私達「人間」という「現象」は、どの様に見えるのか。
地球という惑星にとって、最も優れて理解ある知的なパートナーだったのか……あるいは、いつしか驕り高ぶり、この世界を支配していると思い込んでいる無知で狡猾な存在であるのか……。
どちらなのか……。
どう考えても、前向きな解を思考できない。
所詮、私達という存在は一瞬、この世界に咲いた「あだ花」なのだろう……。
なにひとつ美しく、誇れるものを遺せない現代文明に浸り、生きている私達の世界。
「もう……楽になりなさい……」
月は言った。
ドーム内の歓声がより高まり、私に届く……そしてここからしばらく、詩織のMCが続く……。
「どうもありがとう……ここで皆さんに、私達ヴィーラヴからお知らせしたい事があります」
いよいよ「儀式」も終盤にさしかかった頃、これまでになかった進行、神妙な面持ちで突如詩織が語り出す演出……。
「巡礼者」達もいつもの進行と違い、ただならぬ空気を詩織から感じたのか、声援が止み、ドーム内も息を潜める……。
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