第178話

 詩織は、ドーム内をゆっくりと見回し終えると深く深呼吸し、静かに息を吹く……他のメンバーは俯いたまま、動かない……。


 月を眺めているとはいえ、ライブの進行具合と演出、愛人形達の表情は手に取るように私にはわかる……。




「あの発表ね……」


 ドーム内に、言い知れぬ不安がよぎる……。


 まさか……


 解散……。


 詩織の唇が緩やかに動き、静寂が解かれる……。




「新メンバーを、募集しまぁーすっ……!」


 高揚した詩織の声が、響き渡ってゆく……。


「ウォーーッ……!」


 アリーナ席のひとりが先走り、叫んだ。


 彼を中心に、安堵と歓びが混じり合った歓声が広がり、ドームの天井を突き破らんばかりに共鳴し合う……。




「新しいメンバーの募集ね……」


 私は口元を緩めた。


 偽人達は、自分の欲望を満たしてくれる新たな対象が増える現象で快楽を得ているのだろう……これでまた私達は癒され、救われる……と……。


 一方でスタンド席、ファミリー席のヴィーラヴを羨望の眼差しで見つめ、憧れている少女達の心は踊っているのだろう……自分もあのステージに立ち、ヴィーラヴの一員として光り輝く可能性があるかもしれない……と……。


 そう瞳を、希望で輝かせているに違いない。


 その「希望」に賭け、甘い肉体から滲み出す「果実」にあやかろうと目論む「大人」も存在する。


 自らが「育てた」娘でさえ「大人達」は、黒い欲望を消し去る事はないだろう……。


 たわわに実る、果実の為に……。




 メンバー増員は、使い古された常套手段であり、過去のビジネスモデルを忠実に踏襲している。


 常に新鮮な話題を提供し続ける為に増員、ユニット、ソロ、そして卒業……絶えずその姿を変化させて偽人達の欲望を繋ぎ留める……。




「でも……悪いわね……」


 月を眺め、詫びた。


 私の愛人形達に増員される「人間」は、希望で瞳を輝かせている彼女達から選ばれる事はない……よって「果実」を貪ろうとする「大人達」の目論見も、失敗に終わる。


 ヴィーラヴの新メンバーは、愛人形でなければならない。


 既にミネルヴァとは躰、容姿、性格に至るまで詰めの協議を終え、数週間後には「生産」を開始し、新たなヴィーラヴとして「産声」を上げる……。




「舞の好きにしていいわ……」


 メンバーの増員は、礼子さんが決めた事だが、その他の一切は私に委ねてくれた……嬉しかった。


 私の新しい、愛する「人形」が増える……心が笑い、魂が踊る……。


 そうとも知らず、か弱き少女達の悲鳴にも似た歓びの声が私に届く……。

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