第132話
縁のない眼鏡をかけ、黒に近い濃紺のスーツを几帳面に着こなし、私やスタッフ達に対しても真摯な態度と言葉遣いで応対する姿勢……はっきり言ってシフォンには出来過ぎな長身の男性マネージャー。
が、シフォンの「傍若無人」さに蝕まれたのだろう、彼の「気」と姿は何処となく疲れ、痩せ細っている様に見える……。
「大変ですね……」
思わず本音が漏れてしまった……。
「そう思われますか……」
否定を含ませた言葉は丁寧だが、声の勢いは明らかに失せていた……。
そして何かを思い出したのか、仄かに笑う。
シフォンも最初から、ああではなかった……と、遠くに視線を飛ばし、言った……。
彼は、デビューからシフォンを支え続けた……あの砂漠でシフォンを励まし、共に歩み、時には立ちはだかる脅威をその身を呈して彼女に傷がつかない様にあらゆる手段を講じて守った……。
シフォンも、彼の想いに懸命に応えた結果、砂漠の、今の世界で確固たる地位を築いた……そこまでは、彼とシフォンの心と魂は一致していた……少し遠い眼で懐かしみ、語った……。
重圧と焦りなのか、頂点を極めたシフォンは、その頂きを維持すべく己との闘いに入り込んでゆく……結果としてシフォンは内なる自我に敗北した。鬱屈し、歪んだ心と魂のストレス解消の矛先は、同業であるアーティストや支えるスタッフ、彼、そしてアイドルに向けられ、終着点にヴィーラヴがいた……。
内なる自我に乗っ取られ、私達を罵倒し、蔑む事でシフォンは辛うじてシフォンであり続けた……。
「自分は、救ってやれなかった……いつも傍にいたというのに……自分は愚かです……」
彼は、自身を傷つけ、寂しくそう呟いた……。
彼の悲しく、悔しさが滲んだ瞳が印象的だった。
「ちっ……よりによってよぉ、アイツらが大トリだなんてっ……そこんとこちゃんとバカプロデューサーに圧力かけたのかよっ、マネージャーっ……!」
「すいませんシフォンさん……すいません……」
「ったく、使えねぇマネージャーだなぁっ……!」
たかが、歌う順番の事で……。
何だか虚しい感情が私を覆い、彼に同情した……。
シフォンが、ヴィーラヴに敵対心を抱くのは今日に限った事ではない……火種は以前から燻ってはいた。それでもシフォンの暴言、妄言にもこちら側から抗議をするといった行動は起こさなかった……。
ドロシーエンタープライズとしては、勝手にやっていればいい……というスタンスを貫き、無駄な争い事は避けた……。
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