第133話

 ヴィーラヴに関わるスタッフ達は、シフォン側のスタッフとも交流があった為に、彼らの苦悩を聞き、知り、シフォンに対しても言いたい事があった様だが、礼子さんが一切を禁止し封じた……。


 私にしても、予備知識があったとはいえ、今日初めて目の当たりにした彼女に、驚きと「恐れ」さえ感じた……。




 程良い「膠着状態」を崩し、直接対決を望んだのはシフォン側だった……。


 ヴィーラヴ6枚目のシングル発売、配信日に合わせる様に、シフォンも急遽、新曲を同日に発売、配信した……。


 これまでもシングル、アルバムの発売、配信日が重ならない様に日程をずらし、初登場1位という記録を互いに積み重ねる「配慮」があった……。


「これも、業界の慣習よ……」


 こうする事で、こちらも、あちらも「面子」が保たれるのだと、いつの日か礼子さんが私に説明した。




 ヴィーラヴ対シフォン……。


 世紀の対決……メディアが必要以上に過熱し、しばらく画面や紙面を賑わせた……。


 しかし、世間の過剰な期待に反して、対決の結果はあっさりとしたものだった……。


 接戦などという、緊迫感もないままの枚数、配信数の差をつけてのヴィーラヴの勝利に、僅差を予想して今後の両陣営の「確執」を期待したメディアや、そこで「造られた」妄想劇を心待ちにしていた世間の気が萎えてゆく風景を、私は今でもはっきりと覚えている……。




 シフォン……失速……。


 世間が、メディアが公然と語り始めた……。


 そして「実感する」……プロデューサーであるミネルヴァの、世間を、メディアを流れる「気」を読み、演算し、シフォンを圧倒的に凌駕する能力を……。


 シフォンの御機嫌がよろしくない筈だ……。


 シングル、アルバム年間売上、配信数共にヴィーラヴが1位でシフォンが2位……番組内での発表においても、血が、腹わたが煮えくり返っているであろう本心を隠し、美しい容姿で表層的な笑みを見せ、観衆に手を振るシフォン……。


 偽人を騙すのに余りある美貌で「嘘」を上塗りする。




「ったくよぅ、プロモーションがなってねぇんだよっ……!」


 執拗に悪態につき続けるシフォン……別のスタジオのアーティストやアイドルがひとり、1組とテレビ局を離れ始めている今に至っても、自身のマネージャーやスタッフ達に不満をぶちまける……。


「なぁ……なぁっ……!何でアイツらの曲やアルバムが1位なんだよっ……私の曲の方がイケてるだろっ……お前らもそう思うだろっ……!」


 周囲に同意を強引に求めるシフォン。

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