第131話

「んあああぁっ……何で私がバカヴィーラヴと一緒の楽屋なんだよっ……腹立つぅ……!」


 尚も毒を吐く……。


「あれっ……聞こえちゃったぁ、バカヴィーラヴさんっ……んまぁ、聞こえる様に言ってんだけどさぁっ……!」


 話には聞いていた……しかし、これ程の性格の醜悪さとは想像していなかった……。


「何を言われても相手にしない方がいいわ……ある意味、病んでいるから……気の毒に……」


 礼子さんが、哀れみの眼で私に言っていた……。


 故に、私も愛人形達も反応しないでいる……。


「ちっ、気取りやがって……たかがアイドルの分際でよっ……!」


 私達が反応しない事に苛立ち、舌打ちを繰り返す。


「ちっ……」


「ちっ……ちっ……」




 彼女の名は「シフォン」……。


 本名、生年月日等のプロフィールが非公開の歌い手……。


 砂漠と化した過去の世界で、アーティストがアイドルの種を貪り、頂点を極めた時代に彼女は生まれた……やがて共喰いを始めた彼らの世界を巧みに生き残り、現在においては「最後の歌姫ディーバ」なる称号を与えられ、アーティスト側の女王として君臨している……。


 業界内では知られた「醜い」性格を覆い隠し、大衆を欺くのに余りある端麗な容姿……それは私から見ても美しく、羨むものだ……。


 自ら楽曲を創り、独自の世界観を創造し、女性層の圧倒的な支持を獲得し、国民的アイドルとしてのヴィーラヴも未だ「その層」を完全には崩せてはいない……。


 その、地位も名誉もカネも、全てを手に入れたシフォンが、私の愛人形達を詰る……何故か、私達がシフォンの領域に踏み込み、侵食し、脅かしている事が気に入らないのか……。


 シフォンの中に巣食う「闇」は、なにか……。






 生放送は何事もなく終了した……何度かヴィーラヴとシフォンが絡む場面もあったが、シフォンは楽屋で見せた本性を現す事なく、まるでヴィーラヴと気心が知れた友達の様に会話し、あろう事かヴィーラヴに尊敬の念を抱いているなどと、嘘の言葉と表情を羅列した……。


 シフォンの正体を疑う事もなく、言動と容姿と歌声に酔いしれ、歓声を上げていた人々……。




「何で私が大トリで歌えねぇんだよっ……ったくもうこんな下らねぇ歌番組なんか出ねぇぞっ……!」


 番組終了後の楽屋においても、マネージャーに向かって悪態をつくシフォンの声が響く……。


「すいません……すいません……」


 マネージャーが、謝罪を繰り返す。


 彼女らが出演していた時、僅かだったが私はシフォンのマネージャーと会話を交わした……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る