第130話
現に愛人形達は、不満を口にする事もなく、寧ろ楽しんでさえいる……モカ、モコ、雪やアリス達は、それぞれ仲の良いアイドルやアーティストを訪ねる為、隣のスタジオの区画に飛んでゆく。
この日ばかりは「ヴィーラヴ」といえど、彼らの前では「格下」の存在に成り下がる……。
「いやぁ、何だか申し訳ない……」
番組プロデューサーのひとりが、心のこもっていない謝罪を軽い口から吐く……。
「気にしないで下さい……結構皆、楽しんでますから……」
詩織が爽やかな声と心で言った……。
「そう言って頂けると……」
小刻みに頭を上下させ、詩織にへり下るプロデューサー……。
「いえいえ……本当に気にしないで下さい」
詩織は「わざとらしい」プロデューサーの動きを止める様に、両手を突き出して言う……。
「ったく……そっちには謝って、こっちには謝罪なしかよっ……!」
荒々しい声が、スタジオに響いた……。
パーティションの向こう側で放たれた「下品」な声……。
「と、とんでもない……今から伺おうと思ってたんですよぉ……」
素早く身を翻したプロデューサーは、また「わざとらしい」声色で足早にパーティションの向こう側に消えた……。
「どういう事だよっ、あんなバカアイドルより私の所に真っ先に挨拶に来るのが筋だろうがっ……!」
「いやぁ、すみません……全くその通りですぅ」
私達の時より、より丁寧に相手を諌めようとするプロデューサー……。
「テメェ、口先だけで私を説得しようなんてあめぇんだよっ、このバカプロデューサーがっ……!」
「いやぁ、流石ですなぁ……」
「何が流石なんだよっ……意味わかんねぇ……」
「まぁまぁ……」
このスタジオは3区画……他のスタジオに比べれば明らかに優遇されている。私達の向かいに一番広い区画を割り当てられた声の「主」が、プロデューサーに不平不満を吐く……。
その声に、愛人形達の隣の区画で怯え、身を縮こませている私達の会社の新人アイドルグループ。
無論、彼女らは「人間」である……。
通常、アイドルとアーティストの「頂点」同士の楽屋を同じ空間に配したりはしない……局側も混乱していたのだろう……。
あるいは、声の主を嫌うアイドルやアーティストらの意見に押し切られ、案外頂点同士が同部屋の方がかえって上手く事が運ぶと淡い目論見を立てての「画策」なのかもしれない……。
「怖くない……大丈夫だよ……」
戻ったアリスや万希子さんが、怯える平均年齢12歳の5人の躰に触れ、小さな声で励ます……。
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