第117話
「下品な兵器は使わないわよ……」
兵器の種類は、私にも想像はつく……が、それではないと言う。
まだ完全な形にはなっていないと、礼子さんは濁す……しかし、研究、開発、実験も、この施設群の何処かで進行しているのだろう……では「それ」は何であるのか……。
風であり……
光であり……
霧であり……
水であり……
透明であり……
美しいものを目指していると言う礼子さんの瞳は、快と狂が入り混じった水分を湛え、輝いている。
その礼子さんも、最終的にはどの様な形態になるのかはわからないと両手を広げ、楽しみに首を左右に振る……。
「せめて……苦しまない様に旅立たせてあげたいの」
ぽつりと呟く……。
自然に……まるで眠る様に瞼を閉じ、死んでゆく……恐れも、痛みも感じる事なく、全ての人間が死ぬ……。
人種も、階級も、大人も、子供も、男も女も、等しく死が分配される……。
私達が生きる選択肢は、もう残っていない。
「故に……終わらせるの……」
力強くも、切なさをまぶした想いを声に乗せる礼子さん。
「人間はね、いつしか己の存在を『
「自らが安全ならば、家族が苦しんでいても手を差し延べずに、自分の周りに薄く固い膜を張り、その中で自分には関係ないと笑う……」
「全てを支配している筈の人間が創り出した便利で安楽な世界に人生を、心を削られ、魂を偽人に奪われているとも知らずに……」
そう……巧みに擦り寄り、心の奥底に侵食し、魂に寄生して人間を偽人化してゆく……偽人に乗っ取られ、私達は己の人生を蝕み続けるのか。
しかし、それは私達が招いた結果に過ぎないのだ。責任は、ひとりひとりの人間が負わなければならない……偽人を生み出したのは、自身の弱さなのだから……。
この世界で頂点に君臨し、繁栄を自堕落に謳歌した対価を「利息」と共に返済する期限が迫っている。
いつしか人間は……
「汚く……」
「醜く……」
「怠惰で……」
「無責任で……」
「誤魔化し……」
「欺き……」
「偽り……」
「秩序を失い……」
「慈悲を失い……」
「愛を失い……」
「心を潰し……」
「私利私欲に追われ……」
「互いに争い……」
「真実を覆い……」
「道を誤り……」
「誤りを正さず……」
「真の人生を棄て……」
「この世を嘆いて……」
「死んでゆく……」
これが……世界の「真実」……。
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