第118話
何故か妙に心が穏やかで、納得さえしている。
ではどうしてこの国なのか……ヴィーラヴとは何か……。
既に「人間」として存在するヴィーラヴ……彼女達に心奪われ始めている私がいる。これ以上、礼子さんと対峙してもきっと勝ち目はない……。
私の心と礼子さんの空間が、煮詰まってゆく……。
「こっちへ来て……舞」
こびりついた焦げを剥がす様に礼子さんが言い、空間の外へと誘う。
あの銀色のスライドドアを開放し、全開を待たずに身をひらりと捩らせて外へ出てゆく……。
ヴィーラヴがいない殺風景でひんやりとした空間にひとり、残される私……恐れと不安を掻き立てる低く呻く周期音……。
「ま、待って下さい……」
見えなくなった礼子さんの姿を追う。
「こっちよ……」
意外な程、遠くで聞こえる声……その音色は、持論を展開し溜まっていた鬱積を吐き出した開放感と、秘密を私と共有した喜びと、何処か悪戯っぽさが加えられたものだった。
「ここよ……」
数分、礼子さんの背中を追い、足を止めた先にまたしても鈍く輝く銀色のドア……セキュリティーカードを振りかざし、虹彩、静脈、音声認証をパスしてゆく礼子さん。
「今度は何ですか……?」
笑い頷く礼子さん……「うふ」と声を出している様に見えたが、警告音を響かせ開放されるドアの音に掻き消される。
半分程開放されただけなのに、内部から温かい風が吹き、私の髪を揺らす……。
「逢わせたい人がいるの……」
これ以上、私を誰に逢わせようというのか……「組織」の重鎮が控えている様な厳かな場所でもない。
しばらく歩いてゆく……ヴィーラヴがいた空間とは周波数が異なる低く、地を這う様な唸り声を静かに発している黒い立方体の群れが私を迎える……髪を揺らした風は「彼ら」から放出された熱だった。しかし、歩を進める足先からは、彼らを冷却する冷気が伝わり躰が戸惑う。
そんな私を面白がる様に、彼らの意思である赤、青、黄、緑、白色のLEDランプがリズミカルに点滅を繰り返し、私を笑う……。
彼らの数はわからない……ここはヴィーラヴが人間を更新していたあの空間とは比べ物にならない程に広大で、私の拙い知識でもサッカーフィールドがすっぽり入ってしまう空間に整然と佇み、胎動している姿はある種、芸術的な風景に見える……私を笑っていたのは、ほんの一部の意思なのだ……。
「さぁ……舞」
ひんやりとした動作で終始歩を進めた礼子さんが、足を止め私を迎える。
彼ら、スーパーコンピュータ群の区画から独立した10個のプラチナホワイトパールを纏った立方体達……。
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