第106話

「ちょっと暑くて……」


 ひんやりとした空間にそぐわない答え……。


「その……礼子さんの想いは、わかる部分もあります……私だって過去ばかり見ていた人間ですから。私を救って、ここまでしてもらい感謝しています。それでも、私は……私はわからない……何故、ヴィーラヴが創られたのか……人間ではないものを。まして、人生に飽きた……なんて昇り詰めた礼子さんの口から出てくる事に、私は戸惑い、怒りさえも……」


 縋る眼で、礼子さんを見つめた……。


「わかったわ……舞さんに納得してもらう為に、私の話にもう少しつき合ってもらうわ……」


 強い意志が漲った瞳で、私を見て言った……。


 そして語られた礼子さんの意志は「狂言」なのか……。




 人類は、地球外に生存環境を求め、発見し、いわゆるワープ航行が可能な理論、技術を獲得……火星、木星、土星、果ては太陽系外の銀河までも「平日」感覚での旅行を適切な料金で楽しむ……そして新たな惑星を「改良」し、新天地が誕生する……「母星」に昇格した地球上では、環境問題など皆無となり、笑い話と化す。我々を苦しませ、悲しみを呼び込む幾多の病気、難病さえ、市販薬で予防、完治する……。


 無論、貧富の格差や、人種によるいわれのない差別などない……人体にも「恩恵」は行き渡り、障害者という存在はなくなる……。


 争いを生み出し続けたエネルギー問題は、進化した科学技術によってあっさり解決……それらの理由による戦争など滑稽な事象となり、やがて「死語」となる……。


 ようやく車は空を舞い、完全自動運転制御により交通事故はゼロで推移する……。


 望めば体の一部、又は全身を機械化及び電脳化する事も可能……不老不死という概念も、真実味を帯びた世界……。


 公平かつ均等にカネは人々に分配され、焦燥感と恐れがなくなる……やがてカネそのもの概念さえも変化し「物資化」を棄て、その「威厳」を仮想空間ヘ完全移行する……人の心と魂には「余裕」が生まれ、優しさと正しい志によって人生は潤ってゆく……。




 これが、誰もが想像し、夢見る未来の風景ではないのか……お気楽と言われ、笑われようが、そう想い、生きてゆく事が未来ヘ繋がる筈なのだと……。


 そうあるべき思考と歩みでなければならない。


 しかし……今を刹那に生きる私達の思考は、その歩みとは真逆の方向を進んでいると礼子さんは嘆く。

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