第105話
『まったくぅ、人間って愚かで、人生を振り返るのが好きなんだね……』
次に「人間」になろうとしているモカとモコが、可愛らしいシンクロで私と礼子さんを蔑む……。
「人は未来を知るのが怖いのね……あるべき姿ではない自分が今よりも俯き、暗い眼で未来の世界を漂流している。それを見るのが怖い……そうであるとは限らないのに、思い込み、未来を閉ざす……自分の気持ち、努力次第で未来の道は変化し、良い方向へ向かうというのに、自ら闇に繋がる道を選択してしまう……」
「だから、人は過去へと戻る……還り、ありし日を懐かしんだり、歴史的事象の検証に耽る……その繰り返し。けれど今の自分を守る為、過去には介入しない……介入すれば過去は改ざんされ、自分は現在に存在していないかもしれないから……でも、未来は変えられる。覗き見た未来は仮の風景……生き方で良くも悪くも改変が可能な筈なのに、そうはしない……何もかも諦め、ただ流れに身を委ねる。誰かが変えてくれる……ヴィーラヴが自分の人生を明るく照らしてくれる……もうそれだけでいい。私にはそんな風に見えるの……それが、悲しくて……」
「礼子さん……」
「この地球上で、食物連鎖の頂点に君臨して、科学技術の進歩で繁栄を築き、人々は潤っている筈なのに……争いは繰り返され、富める者とそうでない者の差は拡大し、幸せの分配は偏ってしまう……」
『幸せを分け与えて、互いに幸福の道を歩もうとしないんだね人間って……幸せを独占して、他人を不幸に陥れる。それが人間なんだね……愚かだねっマイマイっ……』
無垢な衣を纏い終えたモコとモカが、私に真の人間としての感情を示した……。
「そうね……」
ふたりを見つめ、心で念じた……。
『えへっ……』
悪戯っぽく「笑い」ふたりのケースは移動してゆく。続いて万希子さんが、柔らかい白い肌を纏い始める……。
葵の戦略的な肌の色、流花の褐色の肌、モカとモコの弾ける色の肌、そして万希子さんの肌……。
まるで魔法の絵具……。
こうして彼女達は、ヴィーラヴに憧れと、己の欲望と妄想の源としていた「彼ら」の情念が染み込んだ肌を洗い流し「純粋」な躰に個々に相応しい色の新たな肌を身に纏い、再び「彼ら」を妖しく操る。
新たな「命」が吹き込まれる光景に「憧れ」という感情が私の血管を巡り、心が疼く……。
「どうかしたの舞さん……少し顔が赤いわよ……」
私の中で蠢き始めた息吹きを感知し、その原因をわかっているかの様な眼と声で、礼子さんは私に尋ねた……。
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