第107話
私達が想い描く未来の景色は、暗く湿っている。
灰色の空が覆い、酸性雨が降り注ぎ、謎のウイルスが蔓延して人口は減少……思想、言論が「統一」された社会で人は全てを管理され、狭い価値観の中で自我を殺され、洗脳されて何の疑問も持たないままに「どんより」と人生を終える……。
そうあって欲しいかの様に今を生き急ぎ、過剰な私欲を貪り、上っ面の感謝の言葉を紡いで己を守り、表層的な人間関係を構築し、黒く
「私達って……何なのかしら……」
瞼を閉じ、絶望に浸った想いで、礼子さんが呟いた……。
「私達人間にも、天敵が必要だったかしら……」
少し時間を空けて再び開かれた瞼……礼子さんのその瞳は恐ろしくも、美しく見えた……。
確かに事実上、この世界において食物連鎖の頂点にいるのは人間である……人間を「喰う」事で生存している者がいないという点では……。
イレギュラーはあれど、同じ人間以外に「命」を獲られない私達は安堵し、緩慢になってしまった。捕食される側ではないが為に……。
礼子さんは、人間が生きてゆく為に動植物を「殺し」命の糧を得る事を否定しているのではないと言う……憂いているのは、彼らの命を「頂く」という行為が軽んじられ、敬意の念さえも失われている現実が悲しく、歪んでいる……と、私に私達に問いかけている……。
大量消費の為に、大量生産に乱獲と食欲のおもむくままに突き進む……そこに慎ましさなどない。ただ欲に従い、食べ散らかす……余った食物は罪悪感もなくあっさりと廃棄される……過剰な安全性故に。1秒、1分、1時間、1日……時が過ぎただけで命の糧になる資格を失い、毒物であるかの様に棄てられてゆく命……。
狩る側、狩られる側……両方が持ち合わせる緊張感を私達人間は持たない……そしてその果てに体得したのが、先の思考と行動……。
「だから、人間も狩られる側になってみればいいのよ……」
憎しみ、言った礼子さん……。
人間で置き換えて考えてみなさい……私に想像力を全開放しなさい……礼子さんの瞳は無言に促す。
捕食される人間……食物としての人間……食われる人間……。
食用の存在としての人間……生まれ、与えられ、育ち「食べ頃」に調整され命を強制的に終え出荷。
皮を剥ぎ取られ、体は切り刻まれ、食べやすく加工されて捕食者の「食卓」へ届けられる……。
仔牛、仔羊のロースト、フォアグラ、ホルモン、タン、霜降り肉……数え挙げればきりがない、私達を至福へ導き、食欲を満たしてくれる「美食」の数々……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます