5「愛人形」

第96話

 私の全ては、怒りで漲っている……。


 私の、私だけの世界で、少女に言われた事を現実の世界で彼女にぶつける……。


 視線の先には、礼子さんがいる……私の今にも礼子さんに飛びかかり、殴ってやりたいという衝動に満ちた私にも、礼子さんはなんら動じる様子もなく、涼しく視線を私に流す……。


「何をそんなに怒っているのかしら……」とでも言いたげに……。


 あの時、よろめいた私を受け止めたのは礼子さんだった。そして数分前、私の世界から帰還し、目覚めた場所も礼子さんの胸の中だった。


 目が覚め、礼子さんを認識したと同時に、私の心は本能的に拒絶していた……。


 己を拒絶され、距離を取った私に礼子さんは驚きもしなかった。それよりも、今の今まで私に秘密にしていた真実を、いよいよこれから語るのが楽しみでしょうがないという顔の表情と躰の表情で私を眺め、舌舐めずりをしている。




「ずっと、騙していたんですね……私を……」


 視線と視線の駆け引きが続く……。




「そうだとしたら……どうなの」


 軽く瞼を絞り、口元を緩め、礼子さんは言った。


「そうだとしたら?……全てが嘘じゃないですか!」


「…………」


 ガラスと華奢なアルミニウムの柱で囲まれた30帖程の「小部屋」のソファーの上で、礼子さんに抱かれ、この世界に戻った。


 倒れたのは、頭痛が原因ではなかった……肌という衣を纏っていない「剥き出し」の彼女達を見た瞬間に意識を失い、私の世界に旅立っていたのだ。


 礼子さんは、ソファーに座り寛いでいる……私は少し離れて立ち、礼子さんと対峙している……。


「くっ……」


 まるで私が倒れ、礼子さんが介抱するのを想定されていたかの様にしつらえられた空間……。


 一定の周期で低く唸る振動音が、不気味さを掻き立てる……。




「嘘ばっかり……何なんですかこれは……礼子さん」


「これはって……そうじゃないでしょう、舞さん」


「ちゃんと答えて下さい……彼女達は何なのですか」


「ヴィーラヴよ……」


「礼子さん、開き直っているんですか……」


 拳が震える……。


 ソファーの背もたれの上部に右腕を乗せ、ガラス越しに彼女達を愛おしく礼子さんは眺める……。


「言った筈よねぇ……」


「………」


「彼女達を任せたいって……」


「礼子さん……」


「いつまでも隠すつもりはなかったのよ……だからここに来てもらったの。気分を害したら謝るわ……でも、事が事だから、試させてもらったわ……舞さんを」


「試す……それは騙していたのと同じじゃないですかっ!」


 感情が叫んだ……あんなにも……こんなにも彼女達に「尽くして」きたのに……なんて滑稽な私の姿……。


「ふふふ」と笑う彼女達の瞳……。


 その瞳でさえ、真実ではない……。


 生まれ変わろうとしている姿を、私に晒す彼女達「ヴィーラヴ」は……




 人間ではなかった……。

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