第97話

「ヴィーラヴが私達と同じではないと最初に言っても、舞さんは信じないでしょう……まぁ言ったところで舞さんは誘いを断って、そしてまた……」


「だから、私を騙して試したんですか……」


「そうよ……」


 私の怒りを軽やかな身のこなしでさらりとかわし、あっさりと礼子さんは認め、言う。


 幾多の修羅場を潜り抜けた礼子さんにとって、私の怒りなど赤子が駄々を捏ねている風にしか見えないのだろう……現に少しはにかみ、私をこれからゆっくりと説得さえしようと隙を伺っている。


「万希子さんや、アリスの事も、全て私を試す為の嘘なんですね……」


 暖簾に腕押し……「そうよ……」と礼子さんは私をあしらうだろう。


 それでも私は「抵抗」したかった……。


 そうでなければ、この非現実的なヴィーラヴの姿にたじろぎ、礼子さんに「負ける」にしても、自分を保ち、少しでも強がりたかった。


「舞さんの怒った顔も可愛いわね……でも、嘘ではないわ。確かに私が仕組んで試した……それでも、舞さんは考え行動し、万希子とアリスを救った。それは歴然たる事実……ヴィーラヴが人間であろうとなかろうと、舞さんに起こった現象は現実であり、真実だもの……」


「…………」


「私の想像以上に舞さんは良くやってくれたわ……合格ね……」


 薄ら笑う礼子さん。


「一体、何が合格なんですか……」


 更に湧き上がる怒りが、理性を歪めてゆく……。


「これじゃぁまるで見世物じゃないですか……プロデューサーに楯突いたり、カネで真実を覆い隠したり……そんな事が合格だなんて……」


「ええ……」


「満足ですか……私が戸惑い、慌てふためく姿を見て満足しましたか、礼子さんっ!」


 強い語気が、絶叫に変わる……。




「駄目よ……」


 しかし、不満そうに私を睨む礼子さん。


「何ですか、その目は……」


「忘れて……いいえ、隠しているじゃない。あの事を……私はもちろん知っているわよ。どうだったの、流花と葵はちゃんと舞さんを愛してくれたかしら……」


「礼子さんっ!」


 礼子さんは立ち上がり、ゆっくりと私に近づき、腕を組んで顔を少し斜めに傾け、私を伺う……。


 嘲笑うかの様な表情、いたぶり、それを楽しむ口調、出で立ち……全てが許せなくなり、私の感情は右腕を動かし、礼子さんの頬を殴る様に張った。


 肉と筋が断絶された様な鈍い音が響く……しかし次の瞬間、礼子さんが受けたであろう倍の衝撃と痛覚が、私の頬に伝わる……。


 やられたら、やり返す……礼子さんの打撃を受け切れず、ずれる立ち位置。


 礼子さんに、私を騙していた事を謝罪し、この場の主導権を譲る気は更々ないのだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る