第91話

 目的の建物に辿り着く為、幾つかの厳重なセキュリティをパスしてゆく……事前に礼子さんから入場パスはもらっていたので、その「審査」はスムーズだった……。


 ようやく目指す建物の地下駐車場に車を停め、内部に入る。


 そういえば……


 流花と葵……


 そう……まだ私はふたりと話し合いを持てないでいた……私自身、全てが払拭された訳ではない。時折あの夜を思い出しては、躰が変に疼き、心が戸惑う。しかし、ヴィーラヴを目にすると心は平静さを取り戻し、疼きと戸惑いの溝を埋める……。


「皆に話があるの……」


 シークレットライブ前日、流花と葵は「先手」を打った……メンバーと私にふたりの関係を「あっさり」と打ち明けた……。


「やっぱりそうか……」


 淡白な詩織の反応……それは、他のメンバーも同様だった。


「ほらぁ、アリスの言った事、当たってんじゃん」


 皆、笑っていた……。


「なんかそんな気はしてたけど……よし、わかった……変な男がつくよりは全然いいよ……認めるっ」


 リーダーの詩織が、ふたりの関係、交際を許可した。詩織の意思はヴィーラヴ全体の総意……。


 事実、誰も反対しなかった……。


 残されたのは、私の心の置き所とふたりとの新たな関係の構築……。


 どうしたものか……と考える内に受付に私は辿り着いていた。




「こちらです……」


 パスを提示し、入場証を首から下げた私は、女性の案内に続く……少し歩き、渋く銀色に光る大きな扉の横にあるセキュリティシステムに彼女は持っていたカードと自らの網膜をスキャンさせる……。


 随分と厳重な……


 私の「懸念」を消し去る警告音……重々しくスライドしてゆく銀色の扉……。


「あのう……」


 怖さが躰を支配し、女性に問う……。


 しかし、女性はもういなかった……。


 こんな所で打ち合わせ……「仕方なく」歩を進めてゆく。


 頭が……痛い……ここにきて急に締めつけるなんて、タイミングが悪い……朝飲んだ鎮痛剤は役に立っていないのか……。


 なにか「意地」になって躰を揺り動かし、奥へと進む……だが、その痛みは私の全身に行き渡り、意思が、躰が揺れる……。


 揺れはその反動でより大きくなり、足に力が入らなくなり、私の躰は前方へと傾く……。


「倒れる……」


 同時に失われてゆく意識……。




「ふわり……」


 自我を保つ線と気を失う線の狭間で「誰かが」私を受け止めた……柔らかな甘い感触に安心し、瞼が閉じてゆき、私はゆっくりと「停止」し、ここではない別の世界ヘ旅立った……。

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