第71話

「誤解しないで……私は葵と流花の仲を無理に引き裂くつもりもないし、関係も否定しないわ……」


「良かった……ごめんねマイマイ……もっと早く相談すれば良かったね」


 涙を拭い、葵が言った。


「葵と流花の決意……伝わったわ……あなた達の恋愛を認めるわ。でもその様子だと、社長には話していないのでしょう……」


「うん……」


 気まずそうに流花が頷く。


「いいわ……この話は私の所で止めておくわ。ただし、またいざこざが起こった時は社長に報告、相談する……それでいいわね」


「うん……ありがとうマイマイ」


 流花の声が弾む……葵は言葉にならないのか「うんうん」と流花の胸元で頷き、躰を踊らせる。


 考えてみれば、かえって都合が良かったのかもしれない。得体の知れない「異性」という虫がつくよりも……。


「彼ら」の心は繊細で移り気だ……「自分」以外の異性の影がちらつくと、瞬時に欲望の対象を切り替える。


 ヴィーラヴという世界に漂わせておく為にも、害虫は「こまめに」取り除かなくてはならない。


 葵と流花は、理解してくれた……この先、問題を起こす様な言動、行動はしないだろう。それは他のメンバーも同様だ……「恋愛禁止」という規則はヴィーラヴにはない。


「そんな下らない規則はヴィーラヴ及び、ドロシーエンタープライズに所属する者達に必要はないわ」


 眉をひそめ、恨めしく社長は言う……。


 それは人のさがであり、抑えられるものではない。


 過去には、恋愛禁止を標榜し、人気を博したアイドルグループも存在もしていた……しかし、それらの創造主が、更に過去において「飼い犬」に手を出し、結婚しているという「事実」を鑑みるに、愛を心の奥底に封印してゆく事は「不可能」なのである。


「まるで説得力に欠けて、馬鹿馬鹿しいわ……」


 棄て言った社長……。


 そう……そんな事を社長は言っていた……その通りなのだろう。だって私も、愛に「堕ちて」いた時があったのだから……。


 ヴィーラヴは、わきまえている筈……愛に溺れ、暴走などしないと……希望の眼で私を見る葵と流花の姿で私は確信した……。




「葵も流花もありがとう……それじゃぁ私は帰るわね……」


 私も自宅ヘ帰り、資料をまとめ、熱いシャワーを浴びて「今日」を洗い流し、明日に備えたい。


 来た道を戻る……内心、アリス程の「衝撃」があるのかと、僅かに期待さえしていた私は「成長」という過程をスムーズに進行している……そう思えるまでに、私は「浄化」されたのだろうか……。


「…………?」

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