第70話

 危険な「亀裂」……やがて光を呑み込み、無の世界が支配する……私もヴィーラヴも、呑み込まれてはならない。


「流花ちゃんとつき合っちゃいけないの……」


 泣き伏せていた葵が身を起こし、流花の胸元に躰をしならせる……。


「私はね、葵と流花の関係に口を挟むつもりはないの」


 葵と流花の表情が緩む……。


「でも、今日の葵の態度は気に入らないわ……モコに八つ当たりしても、何にもならない……それは葵だってわかるでしょ……」


 緩んだ表情が曇る……。


「流花もわかるわね……ダンスレッスンの時は皆が流花に助言を求める。葵にも色々尽くしたい気持ちも、互いにそれが上手くいかなくて二人は苛立つかもしれない……けれど、冷たい言い方だけれど、他のメンバーに責任を転嫁するのは筋違いよ」


『…………』


「つき合う、愛し合う事は否定しないわ……でもね、責任と覚悟が求められるわ……グループ内の恋愛関係なのだから。葵と流花が、メンバーに配慮しつつ交際を成立させてゆかなければならない。勿論、他のメンバーは葵と流花の関係を理解して応援してくれると私は思ってる……だからこそ、話せない、いちゃつけない、他のメンバーに独占された気がする……そう感じて苛ついたり、他人を攻撃するのはあな達のわがままよ」


『…………』


「試されているのよ……四六時中、一緒にいたい気持ちの中で、メンバーを、スタッフを、ファンを気遣い、いかなる状況でも優しく穏やかな心でいられるかを。その事がわからなくて、暴走を続けるなら、いっそつき合わない方がいい……今日は些細な言い争いだったけれど、頻繁に繰り返すなら、ヴィーラヴの結束力は低下し、誰もあなた達に憧れを抱かなくなってしまう……そして行き着く先の結末はわかるわね。そんな悲しい物語、望まないでしょう」


「メンバーもわかっているんじゃないかしら……知っていて何も言わず、温かく見守ってくれている。彼女達の想い……裏切らないで……」




「ごめんなさい……」


 葵が掠れた声で謝る。


「葵もわかってる……仕事の時は、好きって感情を抑えようと……わかってるんだけど、抑えられなくてイライラして……マイマイの言う通りだと思う。雰囲気壊してるなって……モコッチには明日、ちゃんと謝る。皆に嫉妬しないって葵も努力するから、流花ちゃんとの関係、認めて欲しいんだ……」


「お願いマイマイ……葵ちゃんと話し合って、メンバーに迷惑かけない様にする。そしてそのうちに私達の関係をきちんと話すよ……だからお願い、葵ちゃんとの関係を壊さないで……お願い……」


 決意と覚悟が込められた葵と流花の眼差し。

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