第63話

「よく女性タレントやアイドル、アーティストが妊娠し子供を授かった為、活動を休止します……なんて事があるでしょ。私、腹が立つのよ……その無責任さが……」


 社長は眉をひそめ、更に続ける……。


「だってそうでしょう舞さん……自分のスケジュールを知っている筈なのに……別に私は恋人を創るな、セックスをするなとは言わないわ。なのに何故避妊を怠るのか……結果、妊娠が発覚し立場上、産むしかない。そして先のスケジュールは白紙……彼女に関わる人達は仕事を失う。それがフリークリエイターなら何の補償もされない……自制心を捨て、快楽に耽ったが為に起こる悲劇ね」


「おめでとう?何言ってるの……冗談じゃないわ」


「そんな先のスケジュールを無視する不貞なアイドルやアーティストを私は許さない……勿論、身勝手に無理解に欲望を注ぐ男も同罪よ」


 少し紅い顔の社長の言葉はピークを迎え、静かに息を吹き熱を冷ましたのち、柔和に変換させた口調で再び語り出す……。


「私は守りたいの……ある筈の仕事を失った人達をね……だから優秀なフリークリエイターも社員として雇用している。不測の事態もきちんと補償してあげられる為に……少しでも、助けになればと……」


 社長の瞳には、怒り、哀れみ、優しさ、温もりが混ざり合った潤いが滲み出ている風に私には見えた。




「満足しています……」


 あるフリークリエイターが、待遇をそう表現した。他のフリークリエイター達も同意見だという。


 適切で確実に得られる報酬と、ヴィーラヴに携わる充足感と自らの才能を表現する「誇り」……そして、ヴィーラヴのスケジュールに支障のない時間と日程においては、真のフリーとして活動する事も黙認されている。


 優秀なクリエイターと、最新の設備が施されたヴィーナスタワー。彼らの才能とタワーの設備があれば、ヴィーラヴは何処にでも出現する……地下のスタジオで背景のないセットの前で水着姿で横たわり撮影するだけで、沖縄、グアム、ハワイ……それらの背景素材を用い、肌にかかる水滴や汗さえも細かく巧みに加工、合成されてあたかも現地で撮影されたと錯覚さえする出来映えの映像、写真が完成する。


 何処で撮影されたなど、問題ではないのかもしれない……自分の前で微笑み、語りかけ、妖しい躰を惜しみなく披露してくれるならば、場所や背景が何であっても「彼ら」に意味はないのだろう……主はヴィーラヴであって、他は単なる「お飾り」なのだ。


 ただのお飾りの為に、底知れない金額の人材と設備が、贅沢に投入されてゆく……。

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