第64話
ヴィーラヴは、1週間後に迫ったシークレットライブのダンスレッスンに取り組んでいる。
「何故、僕達私達の前に姿を現さないのか……」
ヴィーラヴ公式ホームページやソーシャルネットワーク上で呻き出される「叫び」……。
確かに、ヴィーナスタワー内やネットでの活動が大部分を占めるヴィーラヴにとって、ファンとの直接的な接点は皆無に等しかった。
歌番組も激減し「茶番化」された大晦日の歌合戦には、こちらの側から出演を拒否している。
「叫び」に応えるライブの開催……。
先に発売された4枚目シングルの初回完全プレミアム・秘密のブルーレイ付限定盤に応募券を封入し、送り返した人達から抽選で2千名を、ヴィーラヴシークレットライブに招待する企画を用意した。
我先に……「渇いた」者達が、当選を求め、群がった……。
あえてネット応募ではなく「実態」を伴い、興味を煽る……「古典的だけれど、これが一番効くのよ」社長はさも当然の言葉の圧力と表情で私達に言った。
その結果、シングルの発売日……しかし、知る人は知っている。実際には発売日前日に商品は店に並んでいる……業界の慣習だ。故に発売日前日にして、初回完全プレミアム・秘密のブルーレイ付限定盤が店頭から姿を消す……。
真実を知らない「真面目」な消費者からの苦情が、発売日にショップやネット、ドロシーエンタープライズに殺到した……。
タワー内のレッスンスタジオで汗を流すヴィーラヴ……皆、ファンと交流を持てる事を楽しみにしていて、士気は高い。
コレオグラファーが曲に乗せて振りをつけてゆく。今日は終日、ダンスレッスンが組まれている。彼女達は、振りつけを躰に叩き込む様にリズムを刻み、鏡に映る自分の姿を確認しながら、より複雑で速くなってゆく振りつけと、難解なフォーメーションの動作を習得してゆく……。
昼前の小休憩に入った。
屈み込み、呼吸を整えるヴィーラヴ……額、全身から汗が床に滴り落ちる。
万希子さんは倒れ、その勢いで束ねていた美しく長い髪が解け、あらぬ方向へと乱れる。
詩織が「はい」とタオルとドリンクを差し出す。万希子さんはにこやかに受け取り、歌詞や楽曲リストが記された用紙を見ながら、二人で身振り手振りを交えてダンスのポイントを確認している。
少し離れた所では、モカ、モコ、アリス、雪が鏡の前で歌を呟きながら、ゆっくりとステップとフォーメーションの動作を繰り返す。万希子さんと詩織とは対照的に、休憩など必要ないかの様に時々はしゃいだ声を上げながら……。
モカとモコは髪をおさげに、アリスは後ろ髪をゴムで束ね、おでこを見せている前髪はピンで留められている……雪はもともとショートヘアなので、髪は縛っていない。
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