第48話
「ふっ……」
堕ちてゆく川井出をアリスは鼻で笑う……。
「もう、わかるよね……娘さんもスマホや洋服にバイト代消えて、カネ足りなくなって店長さんと同世代のオヤジ達と援交してカネ稼いでるんだよ。いつも帰りが遅いでしょ……バイトで遅くなってんじゃないんだよ。そして、悪い友達とツルむ様になってその後は……まぁ、これ以上は言えないけどね。息子もさ、アリスや葵ッチの写真集や、エロ動画観ながらヤラシー妄想を皆が寝静まった頃に爆破させちゃってるよ。きっとね……」
「…………」
「ったく、何が助け合って生きてるだよっ。そんなの嘘なんだよっ……幻想だよっ幻想っ。息子が中学卒業したらきっと奥さん離婚を切り出すね。マズイよね、養育費は取られるし、ひょっとしたら慰謝料も……マンションのローンは払い続けなきゃならないし、仮に売ったって今の景気じゃぁ高値は期待できないから、損切りだよね。あぁ、切ない人生だよね……家族がそれぞれ違う方向を見てるんだもん。悲しき家族の崩壊……悲劇だよね」
「くっ……くうう……」
角度を深め、俯く川井出……アリスが語った事が概ね合致しているのだろう。事実、反論しない。アリスの強引な言葉の吸引力で圧縮され、川井出の姿はより小さくなる。
「ちくしょう……ちくしょう」
店長としての、夫としての、父親としての、男としての全てをアリスに破壊された川井出……呟く様子からはもう、元に復元する反発力も残っていないのかもしれない……彼は永遠に圧縮された。アリスによって……。
「テメェ、さっきからアリスの胸元っ何チラ見してんだよっ!」
アリスが叫ぶ。川井出を口撃しつつも、その卑猥な視線を感じ、仕掛ける頃合いを見計らっていたのか。
私は、それすらも感じていなかったというのに。
多田坂を睨むアリス……。
「べっ、別に見てないよ……何言ってる。万引きしたのはお前だろっ……なっ、生意気に」
目が泳ぎ、ぶつぶつとアリスの行為を蒸し返す多田坂。
「ぶつぶつ何訳のわかんない事言ってんだよっお前っ……何かキモイよ」
「ふ、ふんっ……」
「アリスが何にも知らないと思って、逃げられるとタカくくってんだろっ」
「な、何言ってる……俺は真面目なんだ。お前なんかより長く生きているんだ……」
彼は何を言おうとしているのか……要領を得ない。アリスや私よりも年上なのに、表現が稚拙だ。
店内放送が再三、川井出をサービスカウンターに呼び出しているが、今の川井出に意識を、躰を動かせる気力はない。
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