第47話
「だってさ、売り上げも改善しない……ましてもう潰しの効かない中途半端な店長っていう肩書きじゃぁ何処も使ってくれないよ……だったら普通のパートさんの方が便利で使えるって話だよね。店長さんも今更、肩書き失ってヒラ社員やパートに降格して再出発ってのも、プライドがねぇ……」
「うぐっ……」
「しがみつくしかないよね……ここに。今が買い時ですよって持ち上げられて焦って買ったマンションのローンは、定年後も払い続けなきゃならないし、金利だってどうなるかわからないしね。給与にしてもさ、年俸制と半端な成果評価の導入で上がらないし、ボーナスも減らされて、残業っても管理職だからオールカットだし……大変だよね。これから息子や娘さんの教育費とか諸々カネがかかるってのにさぁ、どうすんのって感じ……もう死ぬに死ねないよね。会社にコキ使われ、成果主義の亡霊にビクついて、定年退職しても雀の涙程の退職金……辛いよね。マジでミラクルワークって感じだよね」
「だっ、黙れ……さっきから好き勝手に……俺達家族は助け合って生きているんだよ。妻はパート、娘は週3日、ファストフードでバイトしてやり繰りしてんだよ……息子だって、高校に入ったらバイトするって言ってくれて、互いに支え合い、生きてるんだ。お前に何がわかるんだよ……ふざけんじゃねぇよ」
「それとなぁ、周りにちやほやされて、愛想振りまいてたんまりとカネが入ってくるお前に家族だ会社だ社会がどうのこうの偉そうに言われたくないんだよっ。俺だけじゃなく、殆どの家庭が苦労して生活してんだよっ……それなのに、万引きなんかしやがって……お前に俺の気持ちなんてわかってたまるかっ……」
自らの家庭の事情まで吐露しての、川井出の精一杯の抵抗だった。
「あっはははっ……てっ、店長さんそれマジで言ってんの?ウケるってかあり得ないんですけど……とんだ茶番だね。奥さんのパートって、レジ打ちとか百均やホームセンターの仕事とかって聞かされてるっしょ……よくある手だね。店長さぁん、実は違うんだよねぇ。きっと奥さんは人妻専門のデリへル風俗に登録してて、その筋のマニアのみなさんとエロい事しまくってんだよ。そのカネをヘソくったり、通販で鬼買いしてストレス発散してるのさ……だって最近、夜の方も久しく絡んでないでしょ」
「ち、違うっ……」
その後の言葉が続かず沈黙し、妻を疑る様に記憶を辿る……しばらくして、疑心が確信に変わったのか、川井出の顔色から血の気が引き、肌はゆっくりと変色してゆき、魂の生気が失われてゆく……。
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