第11話
右側の壁面の一画には、北欧製のスタイリッシュなオーディオビジュアルセットと、それを楽しむカウチタイプのソファーらが、整然と配置されてもいる。
「お久しぶり……元気だった?」
社長はチェアーを反転させ、しなやかに言った。
「は、はい……おはようございます」
「ふふっ、そう緊張しないで」
社長は立ち上がりながら言い、私をソファーへと誘なう。
「失礼します」
招かれるまま、手触りの心地良いファブリックのソファーに腰を「軽く」下ろす。革製ではないセンスに、社長の底知れない上品さを感じる。
「どうぞ……」
自ら淹れた芳醇な香りを漂わすコーヒーの入った何処ぞの国の王室御用達のカップとソーサーをガラスのテーブルに置き、社長は深々とソファーに躰を沈める。
「どうもすみません……」
「そんなに恐縮しなくてもいいわよ」
はにかみ、言い、私に視線を合わせた社長は、細い脚を組んで、懐かしむ様に語り出す。
「初めて逢った頃とは、顔つきが変わってきたわね……勿論、良い方によ」
にやりと、意味深げな笑みと声色だった。
そうなのだろうか……自分では気づかない些細な変化も、社長にはいとも簡単に読み取れる能力が備わっているのか。
読み取れるのだろう……そうでなければ「こんなに」成長した会社の社長の座を得られる訳がない。妨害、中傷、同族嫌悪による嫌がらせ……出る杭は打たれる。どの世界でも同じ。しかし、社長はそれらの障害をかいくぐり、画策し、反撃し、懐柔して今の地位を確固たるものにした。
出過ぎた杭は打たれない……。
その領域に社長は到達したのだ。
拡大は続く……隣地には既にもうひとつのタワーの礎となる基礎工事が粛々と進められている。
社長は何処まで広がり、何処へ行きたいのか……。
私のそんな様子を社長はひと口、ふた口とコーヒーを啜りながら弄び、楽しむ。
「…………」
緊張と私の心理をスキャンする社長の眼に、押し黙る。
ここが頃合いか……持っていたカップとソーサーをテーブルに置き、優麗な瞳を泳がせながら社長はいきなり核心部へと話を切り出す……。
「彼女達、ヴィーラヴのマネージャーをやってみない?」
全身が震えた……。
いきなり、何を……。
体内の血液が心臓に集中し、鼓動は極限にまで速くなり、息苦しい。
とにかく落ち着こうと、カップを手に取り、無理やりコーヒーを躰に流し込んだ。
「熱っ…………」
舌が敏感に反応し、連鎖して躰が一瞬、浮いた。
この私の様子がおかしかったのか、社長は「ふふふっ」と右手を口元にやり、笑う。
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