第4話
「ねえ、キミはどうしてあいつに連れてこられたの?今逃げてないってことは誘拐ではないだろうし」
服屋につくまでの間、ミアが話しかけてきた。
「うん、自分でついていきました。あの男が行商人だと言っていたので、私もなりたいなと」
「キミ、もしかして孤児?」
少し声を潜めて聞いてきた。確かに孤児というものはあまり印象はよくはない。孤児院にいるものは多少ましだが。野良は物を盗んだりするから嫌われ者だ。
「少し前まで孤児院にいました」
だから、少しでも私の印象をよくするために言った。孤児には変わらないが、いたことに変わりはない。
「そうなんだ。あいつはその孤児院と交渉して連れてきたと」
「いえ、昨日その孤児院から追い出されたので交渉はしていません。追い出されたのは足を折ったので」
ミアは私の足を見て納得した風に頷く。
「だから松葉杖持って歩いてるんだ。いつぐらいに直る?」
私は少し考え、記憶をたどってみる。私の周りにも多少怪我をしているヤツはいたが、骨折したヤツはいなかった。だからいつ治るかもわからない。
「わかりません。周りに骨折をしたものがいなかったので」
「じゃあ、その骨折いつした?そしたら私がわかるかもしれない」
骨折をしたのは孤児院の仕事をしていた時だから。
「5日ぐらい前だと思います。今も少しですが痛いぐらいです」
「ちょっと、今痛いなら歩いちゃだめでしょ。ほら背負ってあげるから乗りなさい。お姉さん命令!」
ミアに言われて私は戸惑ったが、早くと急かされたのでしぶしぶ乗る。栗色の髪が視界に入る。
「でも、5日ぐらいってことは最近だよね。あなたって今何歳ぐらいかわかる?」
私の歳、考えたこともなかったが孤児院の大人は確か12か13だと言っていたはず。なら少しでも大人に 見られるようにしよう
「13ぐらいだと思います」
「なら早くて2、3か月ぐらい。遅くても半年はかからないと思う。自信はないけどね。よく食べてよく寝たら早く治ると思うよ」
そんなこんなで、いつの間にか服屋につく。看板が上に飾ってあり、店員と思われる人が声引きを行っていた。私は看板を見て読み上げる。
「ハルタイト、何?」
「ハルタイト呉服店。少しだけ文字が読めるんだね」
「孤児院で学ばされたので。学ばないものはご飯抜きにされるのでまじめにやりました」
ミアは苦笑いしながら入っていく。中に入ると中央付近に大きめの籠が4つ、周りに扉の空いている部屋があり、人が数人は入れる個室が見える。いくつかは扉が閉められていた。
店員の一人がこちらに気が付き、駆け寄ってくる。
「本日はどのようなものをお求めですか?」
その店員は私と少しだけ見て、ミアに視線を戻す。
「今日はこの子の服を見てほしいんだけど、大丈夫?」
店員はもう一度私をしっかりと見つめる。そして大仰に頷くと。
「大丈夫です。そちらのこのような服も当店にはございます。他店ではできないような仕立てをご覧見せましょう」
一つの個室に名札をかけ、使用中に見せる。中では、私の採寸を行っていた。
中央の棚には仮縫いをしている服が入っていたようで、いくつかの服を私に着せていた。けれど、店員とミアは気に入らないらしく、いくつもの服を人形のように替えていく。
「似合うには似合うけれど、何か物足りないね」
そのミアの言葉に店員も同意している。
「ですね。なにか一歩足りません。ちょっと待っていてください。当店で優秀な者を連れてきますので」
それだけ言うと部屋を出ていく。
「大丈夫、疲れてない?ごめんね、着せ替え人形みたいにしちゃって」
着せ替え人形みたいじゃない、そのまんまだったといいたいところだが、言ったらもっとミアの気を悪くしそうなので心の中にとどめた。
「私は動き安ければいい。スカートは慣れてるけどズボンのほうが好き」
「ダメッ、元がそんなに可愛いんだからきちんとおめかししなきゃ。今は足を痛めてるからズボンのほうがいいけれど、動けるようになったらスカートも穿きなさいよ」
めんどくさいと思っていると扉が開く。そこから出てきたのは金髪を編み上げ後頭部で巻いている髪型で、斜めにレースの入ったドレスのようなものを着ている女性だった。
「この子が基本なんでも似合うけど何か物足りない子?」
すごい言われようだが、そこの店員が思ったことをそのまま伝えたのだろう。女性の目が私を凝視する。
「たしかに、ロンスカミニスカフレアタイトラップフレッシュテールマーメイドプリーツチュールサーキュラーなんでも合いそうね」
突然変なことを言い出した。何かの呪文か?女性はこちらの反応も気にせず深く考え込んでいる。
ミアが女性に向かって伝える。
「あの、この子今足を怪我しているんです。なのでズボンが今はいいですね」
それを聞いた女性はより深く考え込んでいる。時折聞こえる言葉があるがデニムやスキニー、ワイドとは何だろうか。他にもいくつか聞こえてくるが理解したくもない。
女性は何か名案を思い付いたように顔を上げる。
「あなた、えっと保護者さん?予算はいくらかしら」
ミアは私を見るので、銀貨の入った袋を見せる。中を確認したミアは女性に伝える。
「銀貨4枚ですね。もしかして、服を一から作るんですか?」
「ええ、あの籠の中にあるものは基本的にどんな人にも似あうようなものにしてあるからね。大きさもある程度変えることが出来るように仮縫いの状態なのよ。けれど、そこの子はあんなのじゃ物足りない。だから、私が一から作ってあげる。銀貨4枚でしか作れないのが惜しいけどその中でできる限りあなたに合うものを作り上げるわ」
女性は私の目をしっかり見て告げる。私は、ただ服が買えればよかったので今この状況に陥って困っているが、これだけ言われているので、無碍にもできない。
頷いた私を見て女性はとても喜んでいる。ミアと服の仮縫いが終わったらすぐに連絡すると言っていたので、服が出来たら宿にでも届くのだろうか。
心がもう宿に行っていた私には気にする必要もなかった。
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