モーニング
氷がひび割れ、はぜる音が心地よい。飾りのないグラスにぎっしり氷を詰めて、店主が淹れたての珈琲を注ぐ。だんだんと陰の濃くなる外はじんわりと蒸し暑さを広げていく。日傘の下でなお億劫そうに息を吐く女の子、ハンドタオルをしきりに動かすサラリーマン、目を眇めながら早足で行く若者、往来の人々を横目に、よく冷えた珈琲が喉を滑り落ちてしまうのが名残惜しい。
「出たくないなぁ」
「今日も暑そうですからね」
「それもあるんだけどね」
ほとんど独り言のように言って、氷だけになったグラスを返すと、いつもと変わらず「いってらっしゃい」と見送られる。氷にまとわりついて飲みきれない薄まった珈琲は、一歩踏み出せない僕の懸想とよく似ている。
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