水鏡

君の世界はいつも半壊で、そこに在ることの方が稀だ。歪み割れ乾いても直に元の形には戻るのだけど再び会える時には私の知っている君だという保証はないので、この賑やかな街で生きる以上私に出来ることと言えば、絶え間ない崩壊と僅かな再生で保たれる君のことをなるべく覚えていられるように見つめるだけだ。君の方はきっとそれが在るべき姿だから、私がそうしたいというだけのエゴにほかならない。或る日のくっきりと描かれた積乱雲。或る日の華やかな浴衣の裾。或る日の空に咲いた大輪。その全部を、君は映したことがあるんだよと無言で教えながら、私は水溜りが干上がっていくのを見届ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る