誰そ彼

チカチカと視界で強く弾ける夕陽が積乱雲の縁を照らしだした。夏の日暮れはもどかしいくらいに緩やかで、彼女との時間を待ち侘びる僕には少し恨めしい。「たそがれ」の言葉の通りに、薄暗がりの守護を離れない彼女の顔を僕が知る日は、恐らくやってこない。二メートル足らず、手の届かない距離が僕たちの友情で、オンラインより少し近く現実味のない遠さに、僕は満足している。たったそれだけの約束で、彼女には僕の声が届く。たとえこれが真夏の幸福な夢だとしても、望んで壊れる贅沢など僕には屑と同じに思えた。

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