第17話 ★10万文字と、深夜に錠剤を探し徘徊する男

 この日も私はモニターに向かっていた。

 え? コンビニへと向かっていないのか? って?

 それが違うのだよワトソン君。最近はとにかく時間さえあればPCに向かい、何かを書いている。

 それもこれも全て、適当に『あんな事を』してしまったせいなのだ。



◆◆◆



 私は、それまでも暇を見付けては何かを書こうとしていた。

 しかしそれは、そこまで本気ではなかったのだ、と今では分かる。

 あの時は、疲れたら休んだし、気分が乗らなければ止めた。気分が乗らないまま何も浮かばなければ何日も何十日も何も書かない。そんな執筆だったのだ。


 以前、色々なサイトで『小説をサイトに投稿する時、どうすれば多くの人に見てもらえるか』という内容について調べた事がある。

 その結果、小説の内容に関する話はとりあえず別にして、最低でも一〇万文字は最初に用意する事。そしてそこから『ある程度』は毎日投稿する事。そして一話四〇〇〇文字前後が理想。という事が分かった。

 ならば投稿を始める前に、どんなに最低でも一〇万文字は書いておかなければならないし。出来れば毎日投稿用のストックも入れて一五万文字ほどはないと毎日投稿は難しいはずだ。

 そう考えて、とにかく最低でも一〇万文字を目指した。


 が、しかし。中途半端な気持ちではまったく筆が進まないのだ。

 六万文字を超えた辺りでまったく進まなくなった。

 作品を見直すと、毎回、何か問題が見付かるか違うアイディアが湧いて来る。そして修正、書き直し。その後に物語を少し先へと進め、そこからもう一度、最初から見直してみるとまた問題が見付かる。というローテーションが延々と続いた。

 そしてそんな日々が数ヶ月続き、やっと気付いたのだ。


「これは、いつまでたっても完成しないな……」


 そうして私は考えた。

 そうだ、もう期限を決めてしまおう、と。

 二月の一七日の午前一二時がリミットだ。出来ていても出来てなくても投稿する。そして後は野となれ山となれ。

 そう、二月の頭に決めたのだ。

 私の頭の中に「もうどうにでもな~れ」とAA付きで声が流れた。


 そして当日。当然のごとく一〇万文字なんて到達する事もなく、五万文字からスタートする事になる。

 そして毎日投稿が始まった。

 最初は書きながらストック放出で誤魔化して凌ぐも、すぐにストックが切れてしまう。

 そうして、必死でその日の投稿分を書き続ける日々が始まったのだった。


 しかし書いてみれば案外何とかなるもので、何とかやれていたのだ。

 異変は、投稿を始めてから二週間ほど経った頃だ。夕方になると目が霞むようになった。これは以前にもなった事があり、その時は栄養バランスの改善などによってなんとか治した。

 なので、どうせ今回も食生活の問題なのだろう、と簡単に考え、野菜を多めに摂るも、何故か治らない。むしろ日に日に酷くなっていく。遂には朝から目が霞むようになった。

 そして私は思ったのだ。


「そうだ、コンビニへ行こう」


 そして私は出かけるための準備をしたのだった。


 え? 今回はコンビニには行かないんじゃなかったのかって?

 いやいや、そんなわけないじゃないか。

 タイトルが『深夜、コンビニ、探訪録』なんだよ? コンビニに行かなきゃ書けないじゃない!


 ドアを開け、いつもの格好で外に出る。

「……寒い。……いやマジで寒いよ」

 洒落になっていない寒さが全身を襲う。

 夕方頃にチラッと見た天気予報を思い出す。

 そういや「明日の朝は冷え込みます」「えっ今朝も凄い冷え込みだったのに、もっとですか?」みたいな掛け合いが番組内であった気がする。

 一瞬、戻って何かさらに着込もうかと考えるも、面倒になって歩きはじめる。


 今日は何となく、二番目に近いコンビニへと向かう。そういう気分だったのだ。

 コンビニへと歩く。

 うん、寒すぎる。

 さらに歩く。

 これはやばい! ヤバイヨヤバイヨ!

 そして厚着してこなかった事を後悔しながらブルブル震えだした頃、やっとコンビニへと着いたのだった。


 震えながらコンビニのドアを開け、中に入る。そして入ってすぐ、一番近い棚へと向かう。

 ここに、私が求める何かがあるはずなのだ。

 棚を端から順に探していく。

 整腸薬。違う。

 ビタミンCドリンク。違う。

 超高給栄養ドリンク。違う。

 耳かき。違う。

 近藤さん。うん……違う。

 女性用せ……それは色々とダメだ。違う。


 そして私は見付けたのだ、伝説の秘薬を。私にとってのエリクサーを!

 棚からそれを引っ掴む。

 八〇〇円もするなんてクッソ高いよ! と思ったのは内緒だ。

 流石、私に定価二八八のエールを三八八円で売った店だけはあるな! と思ったのも内緒だ。

 そんなこんなでお金を叩きつけて家へと戻ったのだった。



◆◆◆



 家に帰った私は袋を開け、手に入れたブツを一粒飲んだ。

 そしてその日はそのまま眠りについた。


 翌朝、しっかりと目を開き、その二つの目で遠くを見つめる男がいた。


「やっぱりPC作業の疲れ目にはビルベリー。アントシアニンが効きますな」


 そうして全快した私は今日も元気に執筆を続けるのだった。





 というわけで、見切り発車でアップロードしてしまったせいで苦労しながらも毎日投稿を続けた「サマル振りヒーラーの異世界冒険」が最初の目標の一〇万文字を達成出来ましたとさ。

 めでたしめでたし。

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